34話 最初で最後
「ちょっ、どうしたんだよ、蓮。顔色が悪いぞ……?」
「ああ~~おはよう、陽太。まあ、そうだな……夜更かししちゃってな」
「夜更かし?なにかあったのか?」
「……」
蓮は答えずに、クラスでまだ空いている莉愛の席に視線をよこす。
昨日に比べて熱はだいぶ下がったものの、莉愛はまだ学校に来れるような状態じゃなかった。
だから、今朝にちゃんと注意をしたけど……。
『………』
『………』
『な、なに?』
『……なんでもない。じゃ、行くから』
『……うん、いってらっしゃい』
莉愛から好き、という言葉が出た時点で、蓮はどう接すればいいのか分からなくなって。
結局、逃げるように家から出たのである。
「陽太……助けてくれよぉ……俺もう死ぬかもしれないぞ……?」
「葬式くらいは行ってあげるさ。で、マジでどうしたんだよ?また七瀬か?」
「なんでそこであいつの名前が出るんだよ!!」
「ああ~~莉愛と全く同じ反応するんだね~~日比谷」
蓮がとっさにムッとしたその瞬間、横から白水由奈―――由奈の一番の親友が蓮の席に近寄る。
「え?同じ反応ってどういうこと?」
「ぷふっ、あなたは知らなくてもいいよ、日比谷。というか、莉愛は大丈夫なの?」
「な、なんでそれを俺に聞くんだよ……?」
「ふふ~~~ん。莉愛のことだからそりゃ日比谷に聞くでしょ、仕方ないじゃない~~」
「うわ、うざっ……」
……というか、確か白水は莉愛と一緒に住んでるの知ってるんだっけ。
その事実をようやく思い出した蓮は、しぶしぶとした顔でつぶやいた。
「まあ、熱はある程度下がったところ。咳とかはまだしてるけどさ」
「へぇ、そっか。よかった」
「……………うん?なんで蓮が七瀬の具合を知ってるんだ?」
「「あ」」
そこで、目を丸くしている陽太を見て由奈と蓮はとっさに固まってしまう。
………そうだった!!陽太はまだ一緒に住んでること知らないんだった!!うわぁあっ!?!?
「い、家が隣だからだよ!!家が隣だから、ちょっと心配になってお見舞いしに行っただけだから!」
「いや、なんでそんなに必死に否定するんだよ……どうせメッセージとかで分かったんだろ?」
「そ、そうだよ!!それで合ってる!!今朝もしたから!」
必死になって弁明する蓮を見て、陽太はぷふっと噴き出す。
それから、彼は隣にいる由奈と視線を合わせて―――仕方ないと言わんばかりの顔で、肩をすくめるのだった。
由奈も陽太と同じような顔を浮かべたけど、次にそうだ、と拍手を打ちながら蓮に聞いてくる。
「日比谷、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「あいつ絡みの質問ならもう無視するからな!?」
「さすがに無視できないと思うな~~だって、昨日の夜にさ。莉愛がめっちゃ病んでたって言うか……その」
由奈は昨夜、莉愛のメッセージの文面を思い出しながらくすっと笑いながら言う。
「死にたい死にたい死にたいって大体300回くらい飛んできたんだけど、これどういうこと?」
「へぇ、300回か……なるほど」
自覚はあるんだな、あいつ。
告白しちゃいけなかったという、自覚が。
夜更かししたせいで、眠くて眠くて仕方がなかった一日を終えて、蓮は無事に家に帰ってきた。
それから、蓮は制服も脱がずに手だけ洗って、素早く莉愛の部屋に上がる。ノックをしてみても返事はなかった。
「……寝てるのか?」
たぶん寝てるとは思うけど、状態が悪化してないかどうかが気になる。
……まあ、昔は莉愛もノックなしに俺の部屋に押しかけて来たんだし、別にいいよな?
そう思いながら、蓮は生唾を飲み込んで莉愛の部屋を開ける。
案の定、莉愛は寝ていた。
「熱は……大丈夫そうか」
かなりぐっすり眠っているのか、すうすうと寝息まで立てている。蓮は門を閉じて、ベッドの横で膝立ちになって莉愛を見つめた。
綺麗な顔だ。やつれていて、汗もかいていて全体的に憔悴しているのに、それでも莉愛は綺麗だった。
……そんな莉愛に、再び好きって言われた。正気でいられるわけがない。
蓮は自然と、手の甲を莉愛の頬に軽く当ててみる。
「だいぶ下がったな……よかった」
莉愛はまだ目をつぶっている。
蓮は一日中抱いていたモヤモヤをどうすればいいか分からなくて、結局解き放つことにした。
「なんで、好きっていうんだよ……反則だろ、それ」
嬉しい。
蓮はやっぱり、嬉しかった。別れても、友達でも、付き合っていた頃に何度も泣いて傷ついていても。
それでも、莉愛は自分にとってかけがえのない―――世の中で一番大事な存在なのだ。
「俺、何度も言ったのにさ。二度も別れたくないって。君とこれ以上距離が遠くなるのは………マジで、嫌なんだよ」
莉愛は未だに寝息を立てている。だから、蓮は普段より少しだけ素直になれる。
閉じ込めていた思いが、次々と零れ出た。
「俺と結婚するとか言う変な夢も見ちゃってさ~~はあ……俺、本当にただ友達でいたかったんだよ。いつか、俺以外の素敵なヤツが表れても笑って送ってあげるつもりだったんだ。過去に縛られるのは……俺だけでいいからさ」
絶対に、付き合えない。
莉愛以外の人と付き合えるはずがないと、蓮は本気で思っていた。
たぶん、自分の人生で好きな女の人は莉愛が最初で、莉愛が最後になるだろう。
蓮にはなんとなくそんな予感があって、だから―――莉愛が余計に、恨めしかった。
「……変わらないもんだな。俺も、君も」
「………すぅ、すぅ……」
「でも、これだけは約束するよ」
そして、寝ている莉愛の頬をもう一度撫でながら、蓮は薄笑みを浮かべたまま言う。
「絶対に、君の幸せの妨げにはならないからさ」
「………」
「今まで通り………ははっ、そうだな。今まで通り、君の幸せを優先して行くからさ。俺じゃなくて他のヤツ探せよ?この意地っ張りめ」
寝ている莉愛の姿が愛おしい。
でも、自分さえもそれを口に出してしまったら、本当に色々と我慢ができなくなりそうで。
蓮は素早く立ち上がって、時間を確認した後に静かに、部屋から出て行った。莉愛のためのうどんを作るために。
そして、莉愛は。
「…………………………………バカ」
最初からわざと寝たふりをして、すべてを聞いていた莉愛は。
勝手に暴れ狂う気持ちをどうにか抑えようと、両手を胸元に寄せる。
でも、抑えられない。漏れ出して、滲んで、それが全部好きに繋がっていく。
やっぱり、好きだ。大好きだ。死ぬほど大好きで………愛おしい。
「そんな、大事そうに撫でないでよ……バカ」
それに、なに言ってるの。
他のヤツ探せって、本気?できるわけないじゃん。
私の人生の最後の男は、絶対にあなたなのに。あなたが私の……最初で、最後なのに。
……心にもないこと言うなんて。
本当に、バカ………。
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