22話  ラブソングをやろう

莉愛は連に執着した。


それは、昔からのことだった。幼稚園児の頃、愛という概念を知らなかった時から、莉愛は蓮に執着していたのだ。


蓮が他の女の子と話している姿を見てると、胸がモヤモヤして。


蓮が、自分じゃない誰かと一緒にいる姿を想像するだけでも、息が詰まって。


だから、莉愛は先に告白をしたのだ。


付き合う前からも毎日キスしていて、毎日のようにハグもしていて……もう、恋人上の関係だったというのに。



『私のものになって……私はもう、あなたのものだから』



でも、莉愛は証が欲しかった。蓮は当たり前に自分の隣にいるけど、それだけでは足りなかった。


もっと確かな、蓮と一緒にいるという関係性が欲しかった。


だから、彼女は放課後―――蓮に告白をして、恋人になることを選んだのだ。



「……………」

「莉愛~~?大丈夫?」



過去の思い出に浸っている莉愛を、親友の由奈の声が呼び覚ます。


ハッと気が付いた莉愛は、目の前で怪しげな表情をしている由奈を見つめた。



「な、なに?」

「いや、急に固まっちゃったからどうしたのかなって思って」

「…………」



固まるしかない。だって、その関係性の結末はバッドエンドだったから。蓮とは別れたから。


そのバッドエンドを迎えたおかげで、すべてが足りなくなってしまった。


幼い頃から毎日のようにしていたキスも、ハグも、一緒に寝ることも、出かけることも、全部全部……。



「ふふ~~ん。また日比谷のこと?」

「ま、またってなによ、またって!」

「莉愛が落ち込む理由ってもう日比谷しかないじゃん~~ふふふっ」

「由奈ね……私とあいつを何だと思ってるの!?」

「さ~~なんなのかな~~」



しれっと茶化したものの、由奈も莉愛の沈んでいる顔を見てると少し気になってしまう。


互いの想いがお互いに向けられていても、蓮と莉愛は一度別れたのだ。


そして、その過程を隣で全部見守ってきた由奈も、少なからず考えざるを得なかった。



『こんなに互いのこと好きなのに、本当不器用なんだから……』



由奈は苦笑をこぼしつつ、隣の席にいる蓮に視線を向ける。


蓮はちょうど、一緒にライブをやろうと言っていた中学の友達――大久保と話している最中だった。



「じゃ、よろしくな!練習は放課後でいいだろ?」

「サンキュー……!!うわぁ、マジでダメだと思ってたわ。よかった……」

「ていうか、なんでそこまでしてライブしたがるんだよ。お前、別にバンドとかやってないだろ?」

「モテるからに決まってるだろ!モテるからに!」

「バカっ、ここクラス!!」



蓮の言う通り、バカ騒ぎをしている大久保をジッと見つめながら、莉愛は思う。


これでいい。これで……いい?



『………………本当に出るんだ、ライブ』



なんだろう、これ。胸が苦しい。ああ……出てもいいって言ったのは私なのに。


こんな自分なんて普通に引く。執着しすぎじゃん、本当に。


もう別れたのに。


認めたくはないけど、蓮はスペック高いし……自分みたいな重い人じゃなくて、他の女の子に出会った方が、絶対にいいのに。



『でも、夢で確かに言ってたよね……?文化祭で蓮が出なかったら、どうなったのかなって』



それは、自分と蓮が結婚した未来でしていた話だった。


もしかしたら、これってその夢の内容通りになっているのかな?


いや、そんなはずない……か。うん、な、ないよね!!あんな夢なんて普通に嫌だし!


今更蓮と結婚なんて、ありえない……し。



『でも、本当にあれが未来の出来事だったら……』



これからどんなことが起きるんだろう。


莉愛は芽生えた好奇心を抱えながら、複雑な顔で蓮を見つめた。







「じゃ、曲を決めるぞ!もう文化祭までそんな残ってないからな!」



放課後、蓮は大久保につられて一緒にライブをする他の二人と会うことになった。


メインギター担当の藤宮ふじみやに、キーボード担当の森沢もりざわ


一応、隣のクラスだからそれなりに面識はあるものの、実際に話したことはなかった。


蓮は自己紹介を済ませてから、本格的にライブの話を始めた。



「あと3週間だろ?一曲マスターするにはちょっときついし、無難で難易度低いヤツでした方がいいんじゃない?」

「えええ~~それじゃモテないだろ」

「お前、中学の時と全く変わってないな……」



蓮は苦笑をしながらそう言うと、他の二人が失笑しながら一緒に大久保をいじった。



「ええ~~じゃ、どうするんだよ。無難な曲やるのも味気ないだろ?」

「いやいや、普通にみんなが知ってる曲でいいって!そっちの方がウケもいいし」

「日比谷に賛成。大体、残り3週間で練習時間もそんなにないだろ?」

「て、適当な曲を探したら……いいんじゃない?あまり知らない曲をやると、誰もついて来れなくなりそうだし……」



蓮、藤宮、森沢の順でそれそれ意見が広がっていく。


みんなの意見にはさすがに背けなかったのか、大久保はしぶしぶ頷きながらポテトをかじった。


一応は納得してくれたようで安心しながらも、蓮は次の質問を投げかけた。



「で、みんなは希望とかあるの?これやってみたいとか、普段から好きな曲とか」

「お、俺に案があるんだけど」



ボーカル担当の藤宮が、最近まで流行っていた名曲の名を上げる。


それを聞いた途端に、蓮を除いた二人は目を真ん丸にして聞いた。



「えっ、それってラブソングじゃねーか。それも告白する内容の!」

「ま、まさかとは思ったけど………藤宮」

「うっ……!そ、そんなんじゃねーって!別に、そんなんじゃねーから!」

「なに顔真っ赤にさせてんだよ~~好きな子いるの確定じゃねーか!あははっ!なるほど、お前やっぱ姫宮目当てだったか!」

「な、なんで姫宮がここで出るんだよ!そんなんじゃねーって言ってるだろ!?」



なるほど、告白するためにライブをやるのか。


蓮は頷いた後にゲラゲラと笑いながら、目の前にいる藤宮をジッと見つめた。


まあ、ここは片思いを成就させるためにも、一肌脱いでやりますか。



「俺は別に関係ないよ?あの曲いいしな」

「なんだ、蓮。お前もやっぱり七瀬目当てだったか!?」

「それ以上言ったら俺抜けるからな~~」

「ひいっ!?わ、分かったよ!とにかく、俺もその曲は賛成だ」

「ぼ、僕も……悪くないと思うよ」

「じゃ、これで決まりか」



蓮があっさり会話を締めくくり、文化祭ライブの曲が決まる。


この時の蓮は、まだ気づいていなかった。


自分が選んだこの曲が、この後どんな事態を呼び起こすのかを、全く知らなかったのだ。

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