第31話 負担に思ったことなんて無い

 次の日。


「おはようジャス。お寝坊さんだね」

 シバの家でジャスが少し遅めに目を覚ますと、明るい顔のマリカが顔をのぞかせてきた。


「マリカ、今日は元気そうだね」

昨日までとはうってかわったマリカの様子を見て、ジャスは嬉しくなった。


「ジャスにも凄く心配かけちゃったみたいだね。あんまりボーッとしてて覚えてないんだけど」

 マリカはペロッと舌を出す。

「なんか魔法使いに誘惑されちゃったんだっけ?私なんかをねー。物好きもいるものねー」

 自嘲気味にマリカは笑ってみせる。


「マリカは素敵だよ。女性の趣味だけは大魔法使いと趣味が合いそうだよ」

「シバ!」


 マリカの後ろからシバが現れた。マリカの顔が真っ赤になった。


「仕事は?」

「休憩だよ。ジャスおはよう。ジャスは朝ご飯まだだろ?俺はお茶でも飲むから一緒にどうだい」

 シバに言われてジャスは頷いた。



「調子いいみたいだね、マリカ」


「ああ。ジャスのおかげだ」

 シバはジャスに丁寧に頭を下げる

「少し心にゆとりが出来た。焦らず方法を探っていこうと思う」


「ああ。でも、方法探すのは僕に任せてよ。シバは姉の事をよろしく頼むから」

 朝食を食べながら、事も無げにジャスは言ったが、シバは苦い顔をした。


「ジャスだけに負担をかけるわけにはいかないだろう」

「負担をかけちゃってるのはこっちの方だよ」

「マリカの事を負担に思った事なんてない」

 シバは真剣に言う。


「一人で抱え込まないでくれ。俺はマリカだけでなくジャスの事だって大切だ」

 シバの言葉に、ジャスは言葉をつまらせた。シバはそういう人だ。


「わかった。でもさ、実際僕は大魔法使いアウルに会ってるんだよ。アウルに頼んで解呪してもらうのが一番手っ取り早いだろ?」

「それはそうだが……、というかジャス、まさかまた大魔法使いの所に行くつもりなのか」

「そうだよ」

 ジャスの返事にシバは困惑したような顔を浮かべた。


「危険じゃないか」

「大丈夫、実際薬をもらってこれたでしょ」

 ジャスはニッコリして見せる。シバは黙り込んだ。そして暫く何も言わなかったが、突然お茶を一気飲みして頭を抱えた。


「シ、シバ?大丈夫?」

「いや、葛藤しているだけだ」

 シバは泣きそうな顔をしている。


「ジャスに危険な手段を取ってほしくない。大魔法使いの所に行かないほうがいい、とは思っているんだ。でも一方で、身勝手にも、行ってほしい、なんとか解呪をしてもらってきて欲しいとも思っているんだ」


「何言ってるの。シバがマリカを抑えてくれてるほうがずっと難しくて大変だ。僕身勝手にもそれをシバにお願いしてるんだから」

 ジャスは慰めるように言った。


 ジャスの言葉にシバは渋々納得したようだ。



 朝食を終え、またジャスがまた一旦家に戻ろうとした時、マリカに呼び止められた。


「待ってジャス」

「何?」

「さっきの話……今度はいつ行ってしまうの?」

 さっきの二人の会話を聞いていたらしいマリカが、心配そうに尋ねた。


「えっと、明日かな?」

「もう?もう明日には行ってしまうの?」

「うん、あ、でもまたすぐ帰ってくるよ」

 多分、と心の中で付け加える。


 マリカは悲しそうに下を向いた。


「無理してない?」

「してないしてない」

 ジャスは笑ってみせる。マリカはため息をついた。


「明日、私いっぱいお茶とか作って持たせてあげるから。それくらいはさせてね」


「分かった」

 ジャスはマリカの頭を撫でた。



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