第19話 彼女の毎日
ジャスはトボトボと村を歩くが、元々ほとんど人が歩いていない上に、かなり暗くなっていた。一体どうしろというのか、とジャスはアウルの傍若無人ぶりにイライラしていた。
誰がに泊まるところが無いか聞こうと思ったが、なんせ無一文だ。アウルはオーブのところにでも泊まればとは言っていたが、さっきの騒動で気まずいに決まっている。
「困った……」
ジャスは頭を抱えて座り込んだ。その時だった。
「どうしたの?」
その声に顔を上げると、オーブが立っていた。
「さっきからウロウロして……大魔法使いはどこに行ったの?」
「ちょっと、置いてけぼりにされて」
さっきのこともあり、二人はお互いに少し気まずそうにしていた。しかしジャスはこのチャンスを逃すまいと急いで言った。
「本当に、こんなこと頼める立場じゃないのはわかってるんだけど、今日一日君の家に泊めてくれないかな?」
「いいわ」
思ったよりもあっさりとオーブが承諾したので、ジャスは少し拍子抜けした。オーブはジャスの顔も見ずに言った。
「妹、見てくれるって、さっき言ってた」
「あ、ああ!見る!見ます!」
ジャスはコクコクと頷く。
泊まるところは確保できた、とジャスはホッとした。
オーブの小さな家にお邪魔すると、小さな部屋の隅に小さなベットがあり、そこにはオーブをそのまま小さくしたような少女が眠っていた。
「お邪魔します」
「どうぞ。何も夕食とかは出せないけど」
「大丈夫。全然!」
ジャスは慌ててそう言った。
そしてゆっくりオーブの妹の顔を見た。かなり痩せこけて顔色が悪い。医療に明るくない人が見ても、かなり症状が悪化しているのはわかる。
「先生から貰った薬、よかったら見せてもらえる?」
ジャスが言うと、オーブはすぐに渡してきた。慎重にこぼさないように薬包紙を開き、数粒掌に載せて観察し舐めてみる。
薬の専門知識がないのでハッキリはわからないが、恐らく栄養剤と吐き気止を混ぜたものだろう。初期の北部型細菌性栄養失調には効くが、こうも症状が進んでしまっているのではほとんど効果はない。吐き気止が少し楽にしてくれる程度か。
「でも、これしかないもんなぁ」
ジャスは小さく呟く。ここまで進行してしまっている病に効果的な薬はかなり高価だ。とてもじゃないが、彼女には買えないだろう。
「どう?」
「あー、えっと」
「やっぱり無理でしょ?お金が無いと。わかってるの。もうここまで来ちゃったら、高価な薬に頼るしか無いって」
オーブは寂しそうに言う。
「わかってるのに。私は考えなしで行動しちゃうんだ。お前を使って大魔法使いを脅そうとしたことも。……本当は病院が残ったって妹が助かるってわけでもないのに」
オーブは声が震えていた。
「さっきだって、大魔法使いから治療薬を貰うの、拒否するべきじゃなかったのに。何言われても、土下座してでも貰うべきだったのに。私はいつもいつも感情で行動しちゃうんだ」
オーブは泣いていた。ジャスは困ってしまい、何も言えなかった。
そんなジャスにオーブは泣き顔のまま縋り付いた。
「ねえ、何でもするからやっぱりあの薬貰えないかな……。何でもする。お金は無いけど……」
「ぼ、僕には何もわからないんだ、ごめん。アウルは僕の言う事を聞いてくれるわけでも無いし……」
ジャスは心底申し訳なさそうにオロオロと言う。オーブは首をふる。
「うん、いい大丈夫。無理言ってるのはこっちの方なのはわかってる。確かに、人の言うこと聞いてくれそうなタイプじゃないよね、大魔法使いだし」
オーブは少し落ち着いたようで、泣くのをやめて笑顔を作ってみせた。その笑顔はまだ引きつってはいたが。
「ごめん、変なところを見せた。物置で申し訳ないんだけどそこで寝てもらってもいい?ここだと、たまに妹が吐いたりするから」
「全然、本当どこでも!トイレでもどこでも!」
「トイレで寝られちゃかえって邪魔だよ」
オーブはケラケラ笑ってみせた。
そうして、ジャスはその日はオーブの家で眠った。確かに何度か妹が起きてオーブが世話しているような声が聞こえてきた。これが彼女の毎日なんだな、とジャスは思った。
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