第5話 嫌じゃなかった
クロウはアウルの家に戻った。
しんとした部屋の中、アウルは既に寝ていた。
「嘘でしょ、早すぎる」
クロウは呆れたように呟く。おそらく色々考え過ぎて眠くなってしまったのだろう。アウルは考えるのが苦手だ。
「アウルーごめんちょっと起きてよー。仕事の話もあるのにー」
「んー」
アウルは唸るだけで一向に起きる気配が無い。クロウは少し揺さぶってみる。
「んだよ……うるせぇな」
アウルが目をつぶったまま文句を言う。
「よーし」
クロウはベットに近づき、眠っているアウルの頭を両手で掴み、ぐっと自分の顔を近づける。そしてアウルの口に自分の口をムチュッとくっつけた。
するとアウルはすぐに目をカッと見開き、慌ててクロウの手から頭を逃れさせた。
「テ、テメェ!何しやがる!」
「アウルが起きなかったからチューしただけだよ。いつも言ってるじゃん。起きないとチューしちゃうぞって」
「本当にするなよ!」
「たまには本当にしないと、危機感が無いかなあって思って。どうせしないだろうと思われたら目覚まし効果半減でしょ」
「いや、テメェだって知ってんだろ。魔法使いのキスがどうなるか」
「大丈夫だよー。ちょっとチュってしただけじゃん」
「うるせぇ!」
アウルは自分の口を強く拭う。
その様子をみて、クロウは口を尖らせておどけるように聞いた。
「そんなに、嫌だった?」
「そりゃ!」
勢いよく嫌だと言おうとして、一瞬アウルは止まった。そして少し考え込んだ。
「嫌じゃ、無かったな……」
「へ?」
クロウはポカンとした。
「え。意外な返事なんですけど」
アウルは黙ったままだ。自分の唇を触って考え込んでいる。
「ちょっと、そんな噛み締めないでよ。なんか引くんだけど。ほら、そうだ仕事の話が……」
「よし!」
アウルは突然ベットから立ちあがった。
そして家の玄関めがけて指をスッと指し、回す。すると突然玄関のドアが大きな音を立てて開いた。
そしてなにか見えないものに引きずられるようにして入ってきたのはジャスだ。
「!!何だこれ!」
ジャスは喚く。
「何だよ!何か用かよ!」
ジャスは自分を家に引きずりこんだアウルを睨みつけるように叫ぶ。アウルはジャスを見てニヤニヤしながら言った。
「やっぱり、まだ近くにいたな」
「今、村に帰ろうとしてたんだよ!」
確かに、ジャスの手には畳んだテントが握られていた。
「帰るって、マリカを連れて来るためか?」
「いや、えっと……」
ジャスは言い淀んで、アウルの後ろに隠れるようにして立っていたクロウの顔を見る。クロウから解呪の件を聞いたことは言わない方が良さそうだ。
「とにかく、一旦帰る」
「待て。おい、マリカの誘惑魔法を解いてやってもいいぞ」
「え」
ジャスは顔を輝かせて驚いた。
「ほ、本当か」
「ああ」
アウルは笑顔を浮かべている。
「マリカは連れてこなくてもいい。誘惑魔法も解いてやる。だから代わりに、ジャス、お前が俺の花嫁になれ」
「「…………はぁ!!??」」
アウルの言葉に、ジャスとクロウの素っ頓狂な声がハモった。
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