第2話 誘惑魔法をかけた
魔法使いは、200歳の誕生日までに非魔法使いである人間の花嫁を得る必要がある。200歳までに人間と花嫁の契を結ばなければ、魔力を失い、ただの人間になってしまうのだ。
アウルの200歳の誕生日は三ヶ月後である。
アウル本人があまり積極的に動くタイプでもない上に、運も味方につけられず、こんなギリギリまで何もないままだった。
「誘惑魔法?何回か失敗してなかった?」
「今回は完璧だ。更に本人だけでなく、家族にも花嫁になる事を賛成する誘導魔法をかけた。あとは誘惑がかかっているうちに契を結んじまえばこっちのもんだ。後で女の家族に記憶操作するしな」
アウルは偉そうに言うが、クロウはドン引きしている。
「わ、悪い魔法使い……!!」
「はあ?昔からある手法だろうが」
「今は流行らないよ!」
「流行る流行らないじゃねえよ。それが効率的だろ」
そう言って、アウルは悪びれもせずにイスにふんぞり返っていると、トントン、とドアを叩く音がした。
「ほら、来たぜ」
アウルがニヤリと立ち上がって玄関に向かった。
クロウもアウルの後を追う。
「こんにちは。マリカです」
玄関には、18歳くらいの、茶色の髪を長く伸ばした、目のパッチリした愛らしい少女が立っていた。
「ヘェ~可愛い」
少女を見ながらクロウはアウルに話かける。アウルはなぜか何も言わない。じっと怖い顔でマリカと名乗った少女の顔をみつめている。
「アウル様の花嫁にして下さい」
彼女はニッコリ微笑む。
その時だった。
アウルは突然マリカの長い髪を鷲掴みにした。
「アウル!!」
クロウは悲鳴を上げた。
アウルはクロウの事は無視してマリカに怒鳴りつけた。
「テメェ、誰だ!」
アウルの鷲掴みにしたマリカの長い髪はするんと取れた。カツラだったようだ。下からは短い茶髪が現れた。
こうしてよくよく見ると、マリカは少女ではない。少年のようだ。
「似てはいるが、テメェあの時の女じゃねぇな。誰だ、何しに来た」
アウルは少年の顎を掴み、睨みつけた。
少年も負けじとアウルを睨みつける。
「ふん、さすがにすぐバレるか」
「テメェは、あの女の血族か?随分と似てんな」
「双子の弟だ。名はジャス」
ジャスと名乗った少年は、顎を掴んでいたアウルの手を強く払う。
「あれぇ?家族にも賛成するような誘導魔法かけたんじゃなかったの?」
クロウが面白がってアウルにたずねた。
アウルは少し考え込んだ。
「テメェ、あの日いなかったな」
「何のことだか知らないが、とにかく、姉にかけた訳のわからない術を解け。その為に僕は来たんだ」
ジャスが訴える。
アウルはフン、と鼻を鳴らした。
「断る」
「は?」
「すぐ帰れ。そしてマリカを連れて来い」
「冗談じゃない!」
「同じ事言わせるんじゃねぇ。テメェは魔法使いの恐ろしさを知らねぇようだな」
アウルはスッと手をかざす。
ジャスの足元に火柱が上がる。ジャスは青い顔で後ずさった。
「…いつでも殺せるって事か」
「殺しはしねぇよ。人間を殺すのは禁忌魔法だからな」
アウルはニヤニヤする。
「どうするべきか考えな。早めにな」
そう言ってジャスを玄関から追い出し、ドアをバタンと締めた。
「あー、今回も失敗?」
クロウは少し面白そうな声で尋ねる。アウルはクロウを睨む。
「いや、どうにかしてあの女を連れてこさせる」
「へえ」
珍しい、アウルにも執着する人間がいたなんて、という言葉をクロウは飲み込んだ。
「どんな子なの?マリカって」
クロウは興味津々に聞く。
「前にテメェが紹介した、人間の漢方屋の娘だ」
「あー、あの、ちょっと遠い村のね。あそこの漢方茶なかなかでしょ?」
「ああ。大した腕だ。マリカがほとんど焙煎やら淹れたりやらの作業しているらしい。あの腕なら魔法薬調剤にも役に立つ」
「あはは、完全に花嫁っていうか助手扱いじゃん。可哀想」
クロウの言葉に、アウルは心外、といった顔をした。
「何言ってんだ。俺の花嫁になって後悔なんかさせねぇってのに」
「どこからそんな自信がくるのさ」
クロウは苦笑した。
「ちゃんと連れてくるかなー、あのジャスって子」
「知らねぇ」
アウルは面倒くさそうに目をつぶる。
「じゃ、俺はとりあえずアウルの作った薬納入してくるね。終わったらまた様子見に来てあげるから」
「別にいらねえよ」
そう不貞腐れたように言うアウルを無視して、クロウは魔法薬を持って立ち去っていった。
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