酩酊魔法の優しい使い方
りりぃこ
魔法使いは花嫁を得なければならない
第1話 森の奥に住む魔法使い
迷いの森、と呼ばれる深い森の奥に、きれいな泉のある庭を備え付けた、古びた家がある。
不気味な迷いの森に似つかわしくない爽やかな風と朝の日差しが窓に入ってきても、その家に住む魔法使いの男、アウルは起きる気配が無い。長い黒髪を顔に巻き付けたままによく眠っている。
そんなアウルの家に、いつものように勝手に入っていく魔法使いの男がいる。栗色の髪の毛に整った顔立ちのその魔法使い、クロウは、今日も勝手にベットに近づく。
「アウルー、朝だよー」
クロウの呼びかけに、アウルは邪魔くさそうに唸るだけだ。
仕方なくため息をついて、今度はアウルの耳元に口を近づけ、起きないと、チューしちゃうぞ、と囁く。
それを聞けばアウルはすぐに飛び起きる。そして迷惑そうな顔をして言うのだ。
「毎回、その気持ち悪い起こし方やめろ」
「一番効果的だし」
クロウはクスクスと笑う。
これがいつもの日常だ。
機嫌が悪そうに起きるアウルの目の前に、いつの間にか熱いコーヒーが置かれる。
「砂糖は」
「それくらいは自分でやって」
クロウに言われてアウルは仕方なく指で円を描く。すると戸棚が勝手に開き、砂糖の瓶が飛んでくる。
砂糖のたっぷり入ったコーヒーを飲み終えると、アウルはベットから出て居間に向かう。
「おはよう。頼んでた魔法薬、出来てる?」
「ああ、完璧に」
アウルはそう言うと、どこからともなく大量の瓶を出してきた。
「こっちの小さい瓶1ダースが自白剤、こっちの錠剤入ってるのが変化薬、このデカい瓶がまあ風邪薬みたいなもんだな」
「はいはい了解。じゃあこれ代金ね」
「ああ。いつも悪いな。人間との商売のやり取りなんて面倒で」
「全然いいよ。俺もガッツリ中間搾取で儲けてるしね」
クロウは悪びれも無く言う。
アウルは人との関わりが好きではない。元々のキツイ性格から、人間どころか他の魔法使いともあまりにうまく関係を築けてはいないようだ。
唯一、昔からの友人であるクロウが、世話を焼き、人間界から魔法の依頼を請け負ってアウルに仕事を持ってきているので、生活が成り立っている。
高度な魔法も使える優秀な大魔法使いなのに、勿体ないものだとクロウは常々思っている。
「それにしても、俺がいなかったらアウルどうなっちゃうのかなーっていつも心配」
「そうなったらなったで自分でできる」
「絶対嘘だね」
クロウは呆れたように笑う。
「だから、早く花嫁見つけなきゃだよね?あと三ヶ月でしょ?」
意味ありげにクロウはアウルの顔を覗き込む。覗き込んだアウルの顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「そう、あと三ヶ月だ」
「え……思ってた反応と違うんですけど……。もしかして、もう?」
「ああ。少し前に会った女に、誘惑魔法をかけておいた。今日にでも俺の花嫁になりにやってくる」
アウルのドヤ顔に、クロウはポカンとした。
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