第5話 「副学長」先生からの電話②
男性はヴァイオリン専攻卒業、そこそこの高齢だそうです。
当時はその学園に短期大学しかなく、短期大学卒。仮に高山さんとします。
高山さんは精神科の閉鎖病棟に入院されているようでした。
高山さんにとってこの大学で過ごした日々はきっといい思い出だったのだろう、
だからこれほどまでに広報誌も欲しいのかな、どうか届いて読んで欲しいな、という思いで志野川さんはその病院に広報誌を再送しました。
またしばらくすると、今度は電話ではなく大学HPのお問い合わせフォーム経由で高山さんからのメールがあったそうです。
「結局、病院に広報誌は届かなかったのでこちらの家の住所に送ってほしい」とのこと。
送り主のお名前は高山さんのものでしたが、住所は病院ではなく、その病院の近くの家と思われる住所でした。
これではっきりしました。
病院に送ったとしても、病院側が止めていたり、何かしらの事情で高山さんの手元には届かなかったのでしょう。
その後は高山さんからの連絡もなく、例の広報誌は無事に届いたのだろうと思われました。
その数日後、志野川さんは講師室で私と、数名の先生方にこのことを話してくれました。
すると、ある先生が「私は高山さんを知っている」と口を開きました。
女性で、大ベテランのヴァイオリンの先生です。
仮に田畑先生としますが、例の電話の高山さんは、田畑先生の2,3年先輩だそうです。
曰く、以下のようなお話です。
・高山さんは物静かで優しい方、ヴァイオリンの演奏も人柄が出ていて、派手さはないけど印象的な演奏をされる方で、素敵だった。
・夏になると日焼けしていた。物静かではあったけれど、ご病気をされるイメージはない。
・おそらく短大を出た後に附属の音楽教室で講師をされていたと思う。
・ある年に外部から国内でとても権力のある教授が赴任して、学生募集などに積極的に関わった。
・結果新規の学生は増えたけど、在学生、卒業生、教員からは不満が噴出してやめていく人も多かった。
・当時はその教授の件でメンタルを壊す教員がとても多かった。高山さんのこともいつの間にかお見かけしなくなったので、その時期に退職されたのだと思う。その後のことは知らない。優しくて、良い先生だったのに残念とのこと。
・その権力のある教授は最終的に副学長までつとめて名誉教授になったけど、昨年亡くなった。急な話だったと思う。
そこまで田畑先生が言って、その場にいる皆ではっとしました。
高山さんに発送した広報誌には、その元副学長である名誉教授の訃報が掲載されていたのです。
必死に何度も広報誌を送ってほしいと連絡をしてきた高山さんと副学長の訃報、
病院側が広報誌を高山さんの手元に届けなかったこと(彼に副学長の訃報を断固として読ませまいとしていたこと)と何か関係はあったのでしょうか。
そして、高山さんの「自分は副学長までつとめた」という主張は何なのでしょうか。
分からないことだらけですが、
一つだけはっきりしていることは、今その広報誌は高山さんの手元に届いていることです。
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