第3話 絶叫する男②

しかし、しばらくしてその心配は覆りました。

私はその絶叫男をしっかりと目撃したのです。

その経緯はこうでした。


ある日昼食に入れるタイミングをことごとく逃して、14:30頃にようやくランチタイムとなった日のことです。

そんな日に限ってお弁当などを持ってきていなかったので、近くのコンビニへ入りました。


その時です。


あの声に遭遇しました。

聞き間違えるはずなどない、あの声です。

あの絶叫男が、コンビニの中にいました。

同じ店内にいますから、その声の大きさというか迫力は凄まじいです。

いつも耳にしていた声のトーンで、何かを言っています。

距離感が近くなったところで、何を言っているかは分かりませんが、とりあえず怒りの感情だけは伝わってきます。


恐る恐るながらですが、

この機会にとどんな人物か見てみました。


中年男性が一名、大きな独り言として怒鳴っている感じで、隣にいる誰かに対してひどい罵声を浴びせている、ということではないようでした。

中肉中背で、意外と髪は黒いようです。

ポロシャツにスラックスをインしているといった普通の中年男性の出立ちで、失礼ながら意外にも身なりは普通というか、そこまで不潔な感じや陰湿な感じはしませんでした。


その場は流石に怖くて、大急ぎでおにぎりとお茶を買って、急ぐようにしてコンビニを出たわけですが、

とりあえず絶叫男は心霊現象でも何でもなく、独り言の大きいおじさんということが判明したのでした。



さて、しばらく時間が経った頃の話です。

仕事は少しずつ覚えていき、

絶叫男のことは忘れていた頃でした。


とある金曜日の定時ちょうど、綺麗に仕事が片付いた日だったと思います。

まだ薄っすらと空が明るいうちに帰れるとなって、私は上機嫌で公園を通って帰ろうとしていました。


公園へ行くには学校の裏門側を通ります。

裏門は唯一、自家用車が行き来できる場所です。

そのキャンパスは都心で駐車スペースに限りがあるため、学園本部の役員や理事長クラス、あるいはその親族のみが自家用車での出入りが許されていました。


その時はちょうど車が一台出るところだったようで

何やらピシッとした雰囲気で、スーツの男性が数名頭を下げていました。


その先には、秘書らしい男性2名ほどを伴って大きな黒い車に乗る中年男性がいました。

明らかに重役が車に乗るところでした。


男性の身なりは随分と違いましたが、見間違えはしません。

車に乗り込んだのは、秘書を伴って皆に見送られていた重役の男性は、

以前コンビニで見たあの絶叫男でした。



4階の部屋であの声が聞こえたとき

「知らない」

「聞こえない」と先輩方にシラを通されたのは

そういうことだったのか、と今となっては合点がいく話ではあります。


ただ、私はこの大学に4年ほど勤めましたが、あのような男性の姿を一度も学内で見たことがありません。

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