第2話 絶叫する男①
202X.2.24投稿
タイトル「絶叫する男」
私が勤務していた大学というのは、都内にある大学で、割とアクセスの良い場所にありました。
あまり詳細に言ってしまうとバレてしまうのではないかと思いますが、
校風としては歴史はあるけれどもそこまで鼻息の荒くないというか、有名な音楽家を世界に輩出する名門、というよりはこじんまりしたキャンパスで学生も少人数制、のんびりと音楽教育を行うような学校でした。
音楽大学において少人数制の最大のメリットは、努力を続けていれば学部の4年間のうちに演奏会に出演できる機会が順々に来る、という点で、
さらには、他者と比べて一喜一憂するより自分の演奏を高めることに集中することが最善である、という答えが既に用意されている点です。
そのため学生たちもあまり競争意識などはなく、とても穏やかでした。
私が退職する頃には感染症の世界的な流行などを経て学園の経営状況が悪化、
教職員の就労環境も学生の状況も大変になってしまうのですが、私が働き始めてすぐの頃は、まだ小規模大学ながらもその学校らしい、それなりの活気が感じられていました。
これは、そんな頃のお話です。
私が4階のある一室でレッスンをしているとこんな現象がありました。
・外から絶叫する男の声が聞こえることがある
・14:00〜15:00の時間帯が多く、曜日でいうと木曜日か金曜日である。毎週というわけでもない
・男は何か言葉を発しているようであるが、聞き取れない。が、語気や声の雰囲気からしてポジティブな大声ではない
規則的な現象、決まった時間・曜日に聞こえてくるということもあり、
また芝居や歌の授業がある学校でしたので、
そういう授業のときの学生や先生の声なのかな、と思いました。
しかしどちらの授業も、違うキャンパスで行われているようでした。
残る可能性としては、ゴミ回収や窓拭き清掃などの業者が大きな声を掛け合って作業をしているというものですが、これらも曜日や時間帯が全く違っていたため、当てはまらないということになりました。
だとしたら、外を歩いている見知らぬ人の声ということになります。
4階の、室内にいても「大きい声だなぁ」と感じるほどの絶叫ですから、なにごとか気になります。
ある日、その声が聞こえてきた際にたまたまピアノの先生方と一緒でした。
私は、同じ部屋にいた先輩方に、「あの大きな声は何ですか?」と聞いてみました。
すると
「知らない」
「聞こえない」と、皆から素っ気ない返事ばかりが返ってきました。
おそらく相当な大声です。聞こえないはずがないのですが、まるでそれ以上の追求は許されない、くらいの冷たさでした。
シャッターを下ろされるというか、この話には2度と触れられないくらいの空気感です。
私は少し怖くなり始めていました。
何故なら、私は既にその大学でその他にも色々と不可思議な現象に遭遇していて、(エレベーターの異音が止まらなかったり、誰もいないトイレの水が流れたり…など)もしやこの絶叫男も怪異(?)の類なのでは?と思ったからです。
もし「聞こえない」という反応が本当で、あの誰にでも聞こえていそうな大声が自分にしか聞こえていないのだとしたら…
それ以来しばらくは週末にあの絶叫が聞こえてくると、何だか落ち着かない気持ちになりました。
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