第60話 機転

「敵襲か!」


 こんな距離からでも気づかれるのか。それとも、先に地上の部隊が捕捉されたか。まぁいい、そんなこと、今は気にする余裕など無い。


「ヒロト、大丈夫!?」


 瞬間的な気絶状態から戻ってきたのか、ソウはその甲高い声を周囲に響かせた。ただ、完全に飛行能力が回復している訳では無いらしい。その身体は、今だ落下を続けている。ソウに助けを頼むのは、厳しいだろう。俺だけで、このピンチを切り抜ける方法。


 そうだ、いいこと思いついた。


 このまま、奴らの所に突撃すれば良いじゃん。


「ああ、大丈夫だ。それから、俺のことは気にするな!」


 俺はそう言い放った後、空中で身体を旋回させ、足を後ろに突き出す体勢を取った。一か八かだが、やるしかない。


「ふんっ!」


 両足に力を込め、それを後方へと発射する。瞬間、足裏から爆発が発生し、それは推進力となって俺の身体を奴らの拠点の入口へと運んだ。やった、成功だ。


 さぁ、後は例のステップを踏むだけ。


「フジヤマ変幻乃技・弐」


 詠唱と共に、指に生えてくる黒いボタン。これで、決める。


「上空に敵発見! 全員撃て!」


 お、気づかれたか。奴らは豆鉄砲のような弾丸で、俺を捉えようとしてくる。そっかそっか、まだ俺と殺ったこと無かったもんな。じゃあ、教えてやる。今の俺に、生半可な攻撃は聞かないってことをよ。


「時間だ」


 さらば、上に従うしかない哀れな奴隷共。自由の炎に抱かれて死ね。


「火山弾」


 俺はボタンに力を込める。


 生まれる、業火。爆発。光。叫び。一体どれだけの命がこの炎に包まれ消えるのだろうか。俺だって、好きでやってる訳じゃない。でも、これが戦争。これが戦い。命と命のぶつかり合いだ。


 ものの10数秒で炎は止み、煙は晴れた。そして、唖然の表情のまま固まっている彼方の敵部隊と、めちゃくちゃになった街が目に入る。どうやら、ちょうど壁の付近に落ちたらしい。つまり、前線部隊を1層出来たってわけ。


「い、い、いけぇぇぇ! 突っ込めぇぇぇ!」


 あらら、さすがにこれじゃあ敵さんも降参してはくれないか。兵士以外の街の人もみんな銃火器片手に突っ込んできちゃって。これじゃ、さすがに厳しいね。


 さ、そろそろバトンタッチと行こうかな。


「後は頼んだよ、みんな」




「『薩美道』! 全員突撃じゃ!」


 壁にぶち上げた穴から、ヤマト人の軍勢が一斉になだれ込む。特に1番隊、マサトシの師団は圧倒的。


「全て斬る! 奥義! 紫電!」


 マサトシは刀を鞘に納めたかと思うと、敵との距離を一瞬にして詰め、敵一列を一直線に切り込む。俺に襲いかかって来ていた敵軍は、全員一瞬の内に真っ二つだ。


「さぁ! さぁ! 後に続けぇぇぇ!」


「「「どりゃぁぁぁぁ!」」」


 我らが軍は圧倒的な勢いで敵の軍勢をどんどん後方へと押しやっていく。反撃するものは切り捨てられ、逃げる者は神文鉄火の炎で焼かれる。この攻撃から、逃れられるものはいない。


「さぁ、俺も続くぞ!」


 俺は皆の後ろを追う形となって、再び走り出した。


 進む。進む。ぐんぐんと。イメージや会議で聞いた内容的に、もっともっと圧倒的な差があるかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。そもそも、奴らも『能力は血液を使用することで他者に伝播させられる』という技術を知らないだろうからな。能力持ちの数の差でこうなるのも必然だろう。


 両サイドは一般兵と龍たちに任せているが、やはり問題は無いらしい。まぁ、そりゃそうか。あの龍を一般兵、もしくは並の能力者が倒せるわけねぇ。やはり、デカさは正義だ。ライゾーがそれを証明してくれていた。


「わっと!」


 いてて、考え事してたら前の人とぶつかっちまった。ん? いや、違う。いくら考え事してても、普通走ってたらぶつからない。もしかして、勢い自体が止まったのか?


「ははははは! 貴様らはここで終わりだ!」


 突如、辺りに響いた挑発的な声。しかも、ヤマト語。俺はその方向を向く。上からだ。


 見上げると、マサトシら最前線の少し後方にある高台に立つ男が3人。そして、その奥には城のような立派な建物が立っている。あそこに、奴らのリーダーがいるはず。


「我らはインガー共和国にスカウトされたヤマト人の精鋭――選ばれし者たちだ!」


 スカウトって。拉致られてきたの間違いじゃねぇか? ただ、力を持ってそうなのは本当だな。


「ここから先は進ませない。この先には『国王』がいるからな!」


 国王だと? なんと、自ら出陣ですか。ただ、デカい。国王さえ潰しちまえば、もうこちらの勝ちはほぼ確定。なんなら、イディアシナ全域の利権をうちが握ることだって可能だ。


 どうにかして、ここを突破したい。奴らの実力はどんなものなんだ。


「おいヒロト、聞こえるか!」


「どうした、マサトシ」


 なんだってんだ、こんな時に。


「ここは俺たちに任せろ。奴らの注意がこちらに向いている時に、お前は先に行け!」


「そんなこと、可能なのか?」


「ああ、もちろん! 行くぜ、お前ら!」


 そう言って、マサトシたちは奴らへ正面切って向かって行く。そこで戦闘が始まった。一般の銃使いは後方支援や敵兵との小競り合い。能力持ちのみが、最前線で屠りあっている。


 この好機、逃すわけにはいかない! 隙を見つけろ。戦場の中に垂れた、1本の小さな勝ち筋を!


 ――見えた! 今まで塞いでいた奴らの壁が左右に割れた! ここしかない!


 俺は地面を勢い良く蹴り出し、この目に映った光る道を一斉に駆け抜ける。


「なっ!? 逃がすかぁ!」


 まずい。この体勢で追っ手の攻撃を受けたら、ガード出来ねぇ。ただ、ここは――突っ切るしか!


「おっと、お前の相手はこの俺だぞ」


 この声はマサトシ! ナイスだ! みんな!


 もう心配は要らねぇな。目の前に障害も映ってねぇ。後は、城まで突っ走るのみ。そして、ボスを叩く!

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