第59話 因果

 その日から、街の様子は目まぐるしく変化した。新たな脅威『インガー共和国』の情報は皆に交付され、同士全てが打倒に向け活動してくれている。


 皆の協力もあり、準備はトントン拍子で進んだ。ユードラの安否も心配だ。だから、なるべく迅速に済ませる必要があった。


 


 1週間後、全ての準備が完了したとの報告を受けた。このペースは異例中の異例だ。これも、皆の頑張りのおかげだろう。


 そして今、俺は元町に住む総勢1235人を眼前にし、広場に建てられた台の上に立っている。最前線拠点への出発に向け、指揮を高めるための最後の演説の時間だ。


 これを、本当に最後の演説にしたい。もう、戦いは終わりにしよう。俺たちが勝って、革命をなしとげ、ハッピーエンドで終わりにしよう。俺はそんな思いを胸に叩き込み、大きく口を開いた。


「みんな、今までよく頑張ってきてくれた。まずはその努力と功績に感謝したい」


 俺の言葉に、同士の皆は拍手を送ってくれた。それらが止んでから、俺は再び口を開く。


「これから始まるのは、血で血を洗う最終決戦だ。俺は今日に至るまで、何が正しいだとか、いろんなことを考えていた。だけど、それはもうやめよう」


 静寂が辺りを包む。俺はそれをぶち破るかのように、心の炎を放つ。


「我らは自らの自由、独立のために戦う! 今までの全てを、この1戦に懸けろ! ここで、終わらせるぞ!」


「「「うぉぉぉぉぉ!」」」


 熱狂が周囲を包み込んだ。俺はそれを見届け、壇上を降りた。


「お疲れ、ヒロト」


 ソウが水と共に労いの言葉を持ってきてくれた。俺はそれを受け取りながら、足を進める。


「今日は皆の輸送があるから、ヒロトの出撃は明日だね。準備は出来てる?」


「ああ、もちろん」


「そりゃよかった」


 へん。ここまで来て、準備なんているかよ。あとは、やるだけ。


――


「さぁ、ヒロト。行こう」


 翌日の早朝、真剣な面持ちと深紅のハチマキを巻いた俺の元に、ソウがやってきた。俺は無言で頷き、外に出る。


「それじゃ……龍門飛躍!」


 ソウの身体が光に飲み込まれたかと思うと、次の瞬間にはその姿を巨大な龍のものへと変化させていた。


「ほら、乗って」


「了解」


 屋敷の2階に届いてしまうほど高所にあるソウの首に、勢いよく飛び乗る。そして、そのまま振り落とされないようにしがみついた。


「それじゃ、出発!」


 爆音と共に、ソウの身体が宙に浮いた。そして、雲の手前まで上昇し、身体をうねらせながら前進を開始した。


「うっひょー、はえぇなぁ!」


 切りつける風を感じながら呟いた。これだけ早けりゃ、1時間で着いてしまいそうだ。どんな原理でこんなスピード出てるんだろうな。


「このまま奴らの拠点の真下まで行っちゃっていいんだよね?」


「ああ、お願いするぜ」


 そこまで行っちまえば、作戦はほぼ成功。そして、勝利も確定したようなものだ。


「じゃ、ちょっと飛ばすよ!」


 ソウはその身体を更に波立たせると、加速度的にそのスピードを上昇させた。


――


「見えてきた」


 飛行開始から数十分後、ソウがひとりでに呟いた。俺はその目を凝らし、先を見る。すると――


「な、なんだありゃ……」


 俺の眼前に映ったのは、こんな上空からでも肉眼で姿を確認できてしまうほど、大きな砦で囲まれた拠点であった。ソウの部隊の奴が言ってたのは、誇張でもなんでもねぇ。マジで、これはヤバイ。


「そろそろ落下の準備をしておいてね」


「お、了解」


 しがみついた姿勢からじゃ飛び込めないからな。ちょうどソウも速度を落としてくれたことだし。俺はゆっくりと手を離し、首元で立ち上がった。


 さぁ、敵の本拠地は目と鼻の先。大丈夫、俺は強い。俺、いや、俺たちなら絶対に勝てる。待ってろよ、ユードラ。


 そう決意を固め、胸に手を当てた、その時だった。


「!?」


 突然、光弾のようなものが地上から飛びこんできた。それはソウの巨体に着弾し、炸裂音と眩い光を発生させた。


 その衝撃が祟ったか、ソウは力無くその身を震わせると、地上への落下を始めた。それと同時に、俺は宙へと投げ出されてしまった。

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