第53話 原理を
「終わったか」
「ああ。これで、終わり」
長かった。いや、実際の時間は10数分にも満たない、簡素なものだった。だが、俺にとってのこの時間は、かなりのもののように感じた。それこそ、数時間を優に超えるほどに。
「じゃあ、帰ろうか」
「いや、待ってくれ」
不意に、俺の口から言葉が漏れた。俺の意思では無い、と言ったら嘘になるけど、ほぼ無意識下で、ユードラを呼び止めてしまった。
「なんだい。何か、気になることでも」
気になることなんて山ほどある。その全部を聞いて、納得する答えが来るとは思わない。けれど、これだけは聞いておきたい。いや、おかなきゃ。
「俺たちはどのようにして、あんな力を手に入れられてるんだ。その原理を教えてくれ」
俺は今まで、自分自身の力について何も考えず行使してきた。ただ、ヤマト人に備わっている機能の1つとして、力を奮ってきた。
だが、普通に考えればおかしい。どうして花蜜を取り込んだだけであんな超人的な力が出せる? それに、俺のどこからあんな爆発が生まれている? 今回の尋問で、それに対する疑問が顕著になった。
別に、ユードラが何か悪いことをしてるんじゃないかとか、そういう風に思ってる訳では無い。ただ、気になったんだ。1人の指導者として。1人の科学者として。
「……そうだな。そろそろ、話さなきゃいけない時か」
「本当か!」
「ただ、それを説明するには準備が必要だ。それに、戦いで破壊された街の復興作業だってしなきゃならない。今すぐの回答は出せないかも」
「大丈夫だ」
うん、それでいい。ただ気になっただけだし。俺の知的好奇心なんかより、みんなのことの方がよっぽど大切だ。
「それじゃ、上がろうか」
「おう」
俺たちは血まみれの地下室を後にし、階段から地上へと戻った。
――
戦いが終わりようやくいつも通りの日々に戻る、そう思っていた俺の前に立ち塞がったのは、過酷すぎるほど多い、山積みの課題であった。
まず初めに捕虜の扱い。皆ヤマト人かつこの土地への侵攻を強いられていたという条件下から、差別するような奴らはいなかった。ただ、その扱いはやはり難しい。
仕事は? 住居は? それ以外にも、決めなければいけないことに溢れていた。捕虜、多く取れたのはいいけど、その分大変だなぁ。約500人、かぁ。幸いだったのは、男女比がちょうど半分ずつだったこと。やつら、女子供も駆り出してやがったからな。こちらとしては、好都合だ。
次に、街や建物の修繕。侵入された範囲は狭いものの、戦いの傷跡は各所に残る。また、負傷者への手当も急務だ。これは俺たちの頭脳だけじゃ解決できない。資材や金、人員など、多数の物が絡み合っている課題だ。中々ハードルが高い。
最後に待っているのが血液検査。力に適合できるかどうかのな。この戦いで、能力持ちは一気に2人増えた。そして、街を構成するヤマト人も、もちろん増えている。だから、新規で適合する奴が現れるのは必然。
正直、マサトシやソウの能力は、俺のものとは大きく性質が異なる。様々な部隊が作れることは、それ即ち戦略性が広がることにつながってくる。それは大きい。
とまぁ、このように、やらなきゃいけない仕事にまみれていたわけだな。いくらスタッフは以前より多いからと言って、大変なことに変わりは無い。気合い入れて、いかねぇと。
これさえ終われば、ユードラから聞けるんだ。この力の真相を。科学の深層を。
俺は頑張った。マジで頑張った。飯と風呂、睡眠以外の時間はほぼ労働。1日20時間労働、睡眠時間1時間もザラだった。
それでも、俺は乗り切ってしまった。力の影響か、いくら疲れていても身体が動いてしまう。そして、僅かな睡眠時間でも、身体の疲れが吹っ飛んでしまう。そんな便利な『社畜体質』に俺はなっちまっていた。でも、今回に限っては好都合。
あの尋問から1ヶ月の内に、俺は全ての業務をほぼ完了まで持っていった。捕虜の住民化も、部隊編成も全部。街の修復に関してはもう少し時間がかかりそうだが、段取りは出来ているので問題は無い。
心配していたルーブからの襲撃も無い。多分、あれで弾切れだったのだろう。ただ、奴らは能力持ち量産の方法を知っているからな。早く勝負をつけるに越したことはない。その終了条件は、イディアシナ全域の解放だ。今の俺たちに、勝てない敵などない。つまり、時間の問題。そう、後は全て時間が解決してくれる。
自分で言うのもあれだけど、俺、頑張ったなぁ。もちろん、仲間ありきだけどね。
――
「ヒロト君」
それは、ある晴れた日のことだった。すっかり少なくなってしまった書類を整理していた時、ユードラが不意に後ろから話しかけてきた。
「どうした?」
「準備が出来た。今日の夜、街の外れにある海岸に来てくれ」
「!」
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