第52話 会話
長い長い廊下を進んで行くと、突き当たりで謎の窪みを見つけた。近づいて見てみると、その穴の下には階段が繋がっており、あからさまに隠し部屋のような雰囲気を醸し出していた。
「さぁ、入って」
ユードラに促されるまま、先に進む。中は埃っぽく、壁にかけられた松明では物足りないほど薄暗かった。
「おお、遂に親玉のお出ましか。見張りとの会話には飽き飽きしてたんだよ」
暗がりから、重く静かな声が漏れた。俺は目を凝らして見る。そこには、手を鎖で壁に繋がれ、やさぐれた様子のルーブ人の男がいた。
「彼があの軍の将校、シャルルだ」
「ご紹介どうも。で、俺に聞きたいことってなんだ? 聞いたら、解放してくれんだよな」
シャルルはその卑下的な目をこちらに向けながら言葉を投げる。反抗的な態度は目につくが、話が早くて助かるな。
「それはお前の返答次第だ」
「そっか。まあ、いいよ。早く質問して」
「じゃあ。お前らルーブ人は何故俺たちヤマト人を狙い、奴隷としてここに連れてきた?」
俺はこいつの目に知を見た。ただの脳筋軍人じゃねぇ。こいつは、知っている。物事を。だから、少し高度な政治的質問でも、答えられるはず。
「ふん。そりゃああれだ。お前らヤマト人が奴隷に適していたからじゃないか」
「は?」
奴隷に適している? 何を言ってるんだ、こいつ。
「ヤマト人は優れた技術と頭脳を持ち、それでいて忍耐強い。なのに、軍事産業はとっくの昔にストップさせてしまった。そう、賢く戦乱の世を収めたからこそ、軍事産業が止まったんだ。素晴らしいことだが、それが命取りだった」
「何が言いたい」
「侵略するのに都合がよかったんだよ。技術のある雑魚とか、最高じゃん。それに、都合よくデウシリウス教も信仰してくれたしな」
おい、なんでそこでデウシリウスが出てくる。
「デウシリウスの海外宣教師はな、表向きは宗教組織だが、本当は海外進出のための部隊なんだよ。現地で布教をしながら、そのデータを本国に送る。そして、勢力を内部に拡大させながら、そのまま乗っ取ることが出来れば最高。そうじゃなくても、データがあるから簡単に攻め込むことが出来る」
俺はどうやら、デウシリウス教を見誤っていたらしい。俺はてっきり、そこら辺の宗教と変わんねぇものだと思ってた。違う。そんなんじゃない。奴らは色んな人間の欲望が絡み合った末生まれた、極悪な政治団体だ。
「それに、統治者がデウシリウスに堕ちることもあったな。サツミ、とかいう地を治めていた男は、自ら土地と民を寄進してきたよ」
「……!?」
おいおい、ウソだろ。つまり、俺たちは売られたのか。たった1人の狂信者と、何千何万もの悪意が籠った教団のせいで、俺たちの平和は奪われのか。虫唾が走る。今すぐ、こいつをぶん殴って吹っ飛ばしてやりてぇ。
ただ、焦るな。一時の感情の昂りは、自身を滅ぼすだけ。奴からは、まだまだ情報をしぼりとれる。
「じゃあ、次。なんでお前らは、ライゾーやトキサダのような、特別な力を発現させる技術を持っている」
これは気になる。どこが初出なのか。もしかしたら、ユードラのような学者が何人もいるのかもしれない。
「あー、気になるよな。俺は科学なんて何も分からないけどな、どっかのお偉い学者さんがヤマトで『真紅の蓮の花』を見つけたんだと」
真紅の蓮? そんなの、この世に存在していたのか。桃色なら見たことがあるが……真紅はねぇぞ。
「ある日、その学者さんが管理していた奴隷がその蓮を食っちまった。その結果が、あれだ」
なるほどな。ユードラが言ってた花のエキスってのは、蓮のことだったのか。だが、あれをどうしたらあの球体になる。多分、こいつらよりも技術の高い加工をしているのだろう。
「その力の持ち主は、どれくらいいる」
「まぁ、さっきまで2人だった、かな。お前らが殺したから、今は0。まだ実験数が少なく、ここ『イディシアナ』全ての奴隷に摂取させた訳じゃないから、まだ伸び代はあるがな。ただ、奴隷主はやりたがらないだろうな」
「? どうしてだ」
「そりゃ、もし適応出来なきゃ死ぬからだよ」
「!」
おいおい、そんなの初めて聞いたぞ。
「その……判別する方法とかは」
「あったら苦労しねぇや」
やっぱ、こいつらの技術はユードラより劣る。その点、こちらにいくらかアドバンテージがあるか。
「……と、ここまで話してきたが、そろそろ解放してくれねぇか。俺、これ以上お前に有益な情報を与えられる自信ねぇよ」
ん、まぁ、もうそろそろいいか。
「その前に、1つ約束してくれ。お前はここに留まろうが、他の土地に逃げ帰ろうが、自由だ。ただ、ヤマト人を傷つけることは絶対にするな。いいな」
「へいへい。守りますよ」
よし。俺はその鎖に手を伸ばし、そこの繋ぎ目で小さな爆発を起こすことで破壊した。
「さぁ、早く行くんだ」
「はいよ……なんて言うと思ったかバーカ!」
シャルルは拘束を解かれるや否や、床に落ちていた鎖の残骸を手に取り、こちらに突き刺そうとしてくる。
だが、遅い。俺はそれがこちらに到達する前に、その右腕に向かって爆発を起こした。
「ぐぁ!」
シャルルは吹き飛ばされ、後方の壁に叩きつけられた。肉体の損傷が著しい。右腕に留まらず、半身まで消し飛ばしてしまっていたか。
「ふふ……化け物どもめ」
「なんとでも言え。貴様らが俺たちを襲ったから、俺たちは化け物にならざるを得なかった」
「そうか」
こいつはもうあまり持たない。出血が酷いし、この身体でどう生きていくというのか。息をするのでさえ、精一杯。
「最後に1つ言っておく。この戦い、お前らの勝ちだ」
「それはどうも」
「ただ、力だけじゃどうにもならない世界があると、覚えておけ」
おいおい。俺はそういう世界を作るために、戦ってるんだっつーの。
シャルルはその後、少し首を項垂れて動かなくなった。
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