第51話 凱風快晴
「ソウ、ありがとう! 準備が出来た! 拘束を解いて逃げてくれ!」
「! わかったよ!」
ソウはその長い身体をくねらせ、巨人から離れた。いきなり外されたものだから、ライゾーはバランスを崩し、ついには両膝を地につけた。行ける、行けるぞ!
「みんな、準備はいいな!」
「もちろんです!」
「それじゃあ……総員、発射!」
俺はその手に太陽を持ったまま、皆に呼びかける。
「うぉぉぉぉ!」
神文鉄火隊全員の右腕から、強力な炎のビームが撃ち出された。それはとてつもないの速さで俺の頭上へとたどり着く。
それが火炎弾に激突すると同時に、俺の手の上に、前向きの大きな力がかかった。これなら、行ける! こいつをぶん投げることが出来る! 勝利を呼ぶの南風が、俺に吹いている!
「喰らえ……皆の力を合わせた最強の変幻を!」
俺は今にも飛び出して行きそうな太陽を、力いっぱい放り投げた。
「これが、
俺の手から離れた球はその丸みを解き、螺旋状に渦巻く光線のようになって奴に襲いかかる。その威力と速さは、神文鉄火からの炎が供給される度、見違えるほどに増していった。
「な、な、なんなんだなぁぁぁ!」
ライゾーはその巨大な手で炎を受けた。やはり、その力はさすがだ。だが!
「そんなもんで止められると思うなよ! 私利私欲にまみれたゴミムシが! この一撃は、俺たちの『皆を守りたい』という思いが集まった一撃だ! 自分のことばかり考え、人を殺すお前に受け止められてたまるか!」
もっと、強く! もっと、速く! 持てる力を、この命が途切れるまでぶつけろ!
「死ねぇぇぇぇ!」
俺はその両手に精一杯の力を込め、火炎の竜巻を押し込んだ。
「ぐ……ぐがぁ!」
遂に均衡が崩れた。止める者を無くした炎は一直線に奴へと向かう。その目に映る全てを狩らんとするかのように。
「んだぁぁぁぁぁ!」
極炎が、奴を飲み込んだ。ここからでは奴が焼き死ぬざまを見ることは出来ないが、確信できる。仕留めたと。
それから十数刻の時が経ち、ようやく視界が開けた。そこに巨人の姿は無く、残っていたのはどろりと溶けた装甲の鋼鉄のみだった。
「はは。勝っちまったよ、俺」
ほっとため息を着いた瞬間、俺の身体をドロドロとした疲労が襲ってきた。なんか、すげぇ寝みぃ。昔完徹した時並の疲れだ。
俺はそれに抗えず、銃で撃たれたかのような姿勢で地面に倒れ込んだ。いや、本当に耐えきれなかったんだって。マジで。
「やったなヒロ……っておい、大丈夫か!?」
そんな俺の様子を見て、マサトシが慌てながらこちらに駆け寄ってくる。おいおい、お前も疲れてんだから、焦んなよ。そんな親友に向けて、一言。
「悪ぃ。今は少し、眠らせてくれ」
――
次に俺が目覚めたのは、自室のベッドの上だった。部屋にぶちまけられたガラス片や血しぶきなどは綺麗に片付けられていたことから、相当な時間眠っていたことが分かる。
そうだ、戦いはどうなった。俺がこうして生きているのだから、負けては無いと思うけど……心配っちゃ心配だ。
「あ、起きた」
組み合わせの悪い金属音と共に扉が開き、そこからユードラが顔を出した。良かった、無事で。
「戦争は無事に終わったよ。敵の将軍も捕らえたし、うちの完全勝利だ」
「そうか。それで、俺は何時間寝てたんだ?」
「1日」
おっーと、それは長ぇな。そこまで長時間寝たこと、今までねぇぞ。
「そんなことより、これから尋問に行くけど、来る?」
「尋問?」
「うん。この屋敷の地下室にルーブの敵将を捕縛しているからね。奴らが攻めてきた理由とか、奴らの文化とか色々聞けるし、いいかなと思って」
それは確かに気になるな。いくら敵の主力部隊を倒したとはいえ、奴らが残党勢力で攻めてくる可能性は十分あるし、情報が多いに越したことはない。
「よし、行こう」
「決まり。ただ、暴力的な手は無しで行こう。こちらはこちらのやり方で、ね」
「もちろん」
俺たちは部屋を出て、例の地下室へと向かった。
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