第50話 Bye Bye

 俺は倒れ込んだ奴の巨体を見据える。やっぱ、デケェな。さぁ、どこを潰すか考えなきゃな。


 胸、無しだ。装甲に覆われてて、ダメージを与えることすら難しいだろう。同じく、脚、腹、背中も無し。となると……残ったのは頭と腕。


 腕は他の部位に比べ、簡単に落とせるだろう。細いから。でも、それだとどうか。落とせたとしても、完全に倒せる保証は無い。もし奴に再生能力があるとしたら、一巻の終わりだ。ここで、なんとしてでも決着をつけなければ。


 やはり、頭。倒れ込んでる今がチャンスだ。むしろ、今しかない。


 想像しろ。奴を倒す場面を。この強大な敵を打ち倒すことの出来る技を。みんなが繋いでくれた架け橋を、落とすことなんて出来ない。


 俺の爆発の威力はいくら未知の物事だとしても、1番知っているのは俺だ。その俺に言わせると……奴を撃つのはかなり厳しい。


 ここはまた、新技を作るしか。ただ、どうする。悪いが、もうネタ切れだ。俺のフジヤマは、比較的拡張性の広い能力をしている。だけど、その拡張性はもう使い尽くしちまった。俺1人では、これ以上の高みへはいけないだろう。


 かくなる上は、力の合成。特別な力を持つ者たちの合わせ技。しかし、ソウは奴を拘束しているし、マサトシは物理攻撃が故に、組めそうに無い。なら、誰とやればいい。それさえ分かれば、答えは出そうなはずなのに。




「おいおい、僕たちを忘れてもらっちゃ困るな」


「!」


 突然、耳に入ったこの声は。馬鹿みたいに優しくて、底なしの明るさを持つ、その音は。


「シゲミツ!?」


 その姿は見えない。だが、声は聞こえる。どこから話しかけているのか、そんなことどうでもいい。


「お前……!」


「僕はもうすぐヤマトに帰っちゃうからね。どうやらヒロトが迷ってるみたいだから、最後助言を、と思って来たんだ」


 正直、シゲミツとしたい話は数えきれないほどある。だけど、今はアドバイスを聞くべきだ。シゲミツが俺に声を届けられる時間も、奴が倒れている時間も限られている。俺は心を押し殺し、1人の挑戦者としてシゲミツの話に耳を傾けた。


「力を合わせるという発想、それ自体は凄いいい。だけど、合わせられる者がいないってのは、大きな間違いだ。いるだろう、沢山! 君と同じような力を持ち、共に火花を散らす仲間たちが!」


 そんな奴ら、いたらとっくに使ってるよ。そう言おうとした俺の頭に、たった1つ、該当しやがる奴らの顔が浮かんだ。


「ヒロトさん!」


 そう、神文鉄火隊だ。シゲミツを除いた7人が、ここに集結した。


「全員聞いたんですよ。亡くなっているはずのシゲミツさんの声を。『ヒロトの下に急いで行ってやれ』って!」


 お前……粋なことしてくれんじゃねぇか!


「さ、役者は揃ったね。後は、思い出すだけだ」


 思い出す? 俺が1度、試している何か、ってことだよな。


「いつの日か、自身の最大火力がどんなものか、試してる時があったじゃん。あの時、ヒロトは頭の上でとんでもなくデカい太陽のような球を作ったじゃん」


 そうだ、そんなこともあったな。ただ、その時は結局、莫大な質量に耐えきれず、バランスを崩して投げられなかったんだ。


「でも、今は違うだろ? みんながいるじゃないか。打ち込むのを手伝ってくれるね」


「……あ!」


 そうか、分かったぞ! お前がやろうとしていることが!


「なぁみんな!」


「なんですか、ヒロトさん」


「みんなは炎を生み出せるじゃん。それを、直線上に放射することってできるか?」


「あ、多分できますよ!」


「でかした!」


 よかった。これができてくれて。それさえあれば、勝てる!


「いいか、よく聞いてくれ。今から俺は、頭上に大きな炎球を作る。出来上がったら合図をするから、みんなはそれに向かって思い切り炎をぶつけてくれ。いいな?」


「は、はぁ……分かりました」


 そりゃ、困惑するよな。いきなりそんなことを言われても。でも、理解してくれれば無問題! それさえやってくれりゃ、百点満点よ!


「……よし」


 ここからは俺の仕事だ。ここで、俺がどれだけ大きな力を発揮できるか。それにかかっている。


 すうっと息を吸い込んでから、ゆっくりと天に両手を掲げる。そして、その1点に気を集中させた。


 瞬間、ふつふつと湧き上がってくる、熱かりし熱血。それは指先から身体を抜け出し、小さな塊となって手のひらに現れた。


 まだだ、まだ全然足りない。もっともっと、圧倒的な力が必要だ。気張れ、俺。見に宿る全ての思いを、ここに集めろ!


 俺が誰かを思う度、誰かの死を悲しむ度。そして、自由へ心を向ける度、その炎は激しさを増し、徐々に1つの大きな力へとなっていく。


 だが、数十秒が経過した時、突如として塊は膨張を止めてしまった。俺の心は依然として点っている。だが、大きくならない。俺じゃやっぱり、ダメなのか。


「諦めるなって、さっきマサトシに言われてなかった?」


「でも……」


「でもじゃないよ。だって、ヒロトの力は僕の方が知ってるもん。自分より、他人の方が客観的に物事を見れるって、ユードラさんが教えてくれたんだ。そんなことより……置き土産をしていくのを忘れていたよ」


「置き土産?」


「うん。僕の魂に残った、最後の輝き。それをヒロトにあげるよ。多少の足しにはなるだろうし」


「でも、置き土産ってことは……」


「うん。僕のこの声はもう、ヒロトには聞こえなくなる」


「そんなの」


「ねぇ」


 そんなの嫌だ。そう言おうとした俺の喉を、シゲミツは語尾を強めて制止させた。


「ヒロトは僕のことを引き止めないようにって、骨まで焼いてくれたよね。それに関しては感謝してる。でも、もし君の言う通りにするなら……」


「あ」


 そこで俺は初めて自分の矛盾に気づいた。自由を願っているはずの俺が、シゲミツをここに引き止めてしまっているのだと。


「分かってくれたみたいだね。君が今すべきなのは、僕と共にお話することじゃない。あいつを倒すことだ。いいね」


「ああ、分かってる」


 俺、やっぱり利口じゃねぇな。こんなことも気づけないなんて。


 それでも、俺には仲間がいる。俺に道を示してくれる仲間が。それでいいじゃないか。人は、誰しも完璧にはなれない。だからこそ、助け合って生きていく。それが、答え。


「吹っ切れたみたいだね。それじゃあ」


 シゲミツは少し、ほんの少しだけ声を濡らして、俺に別れを告げる。


「さよなら! また、元気で!」


 ああ、さよなら。シゲミツ。


「!」


 来た。来た。来た来た来た! シゲミツの思いが、宙を伝って俺の心へと、直送されてきた!


「うぉぉぉぉ!」


 それと同時に、眩い程の光を放ちながら、極大サイズに膨れあがる太陽。ありがと、シゲミツ。お前の思い、やばいって! 足しどこの騒ぎじゃねぇよ!


 さぁ、これでようやく準備が整った! 食らわせてやるぜ、巨人!

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