第49話 龍門飛躍
突然、戦場に響いた生物の鳴き声のような轟音。俺たちは一斉にその方向を見る。それは、屋敷からだった。
俺は目を凝らしながらその正体を探る。細長く巨大な身体。髭が生えた、鮫やワニのような口。そして、うねりながら伸びた角。俺はこの生物に見覚えがある。
「あれは……龍!?」
そう。遥か昔、本で見た伝承の存在、龍にそっくりなのだ。もはや、龍そのものと言っても過言ではない。
そんな奴が、どうしてここに。まさか、これも例の力による変身か! しかも、屋敷の方向から飛んできたということは……
「キシャァァァ!」
龍は暴れ狂うライゾーに向かって、一目散に突進する。その巨体は、奴より華奢ながらも、立ち向かうのに十分だ。
「うわぁ! なんなんだな!?」
その猛烈な体当たりで地面に叩きつけられるライゾー。龍はさらに追撃を加えた後、こちらに向かってきた。
「ごめん、お待たせ!」
龍が目の前に来た途端、頭の中に響くその言葉。直接脳内に話しかけて来ているのか。
そして俺は、この声を知っている。
「お前……ソウか?」
このあどけなさに賢さが混ざった独特な声、ずっと生活してきた間違えるはずはない。こいつは、ソウだ。
「よくわかったね!」
「おお……でも、どうしてそんな力を?」
俺たちの街に来た者には1度、あの玉が反応するか試験をする決まりになっている。その際、ソウには反応しなかったはず。なのに、何故?
「あの時、ボクは確かに絶望していた。自分のせいで皆や父さんが死んだ。ヒロトの言ってることは正しいってね」
ぐっ。今になっても胸が痛む。本当に、悪いことをした。
「でも、マサトシさんやシゲミツさんがヒロトを立ち上がらせたのを見て。ヒロトが過去の自分と決別して立ち上がったのを見て。ヒロトがシゲミツさんの亡骸に話しかけていたのを見て、思ったんだ。このままじゃいけないって」
「ソウ……」
「奴らがまた攻めてきたと気づいた時には、瞬間的に身体が動いていた。そうしてユードラさんにお願いしたんだ。『ボクにもヒロトと同じ力をくれ』って」
ソウの場合、元々能力の素質があった訳では無い。自ら、掴み取ったんだ。人を超えた幻想の存在、龍の力を!
「絶望を乗り越え手にした力……名付けるなら『
ああ、やっぱりこいつ、最高じゃん。俺の力なんて必要無く成長しやがった。これだからガキは!
「頼もしいな。ただ、決めの一手に欠ける」
「そうなんだよね。ボクにはマサトシさんのような一撃も、ヒロトのような爆発力も無い。だから、〆は任せたよ!」
「ああ、俺たちに任せとけ!」
「じゃ、行ってきます!」
ソウは再び巨人に向かって飛んでいく。
「お前……許さないんだな!」
ライゾーはソウを捕捉するや否や、その拳をやたら滅多らに振り回し始めた。ただ、その1発1発の動きは鈍いため、簡単に回避することが出来る。
「はは、遅い遅い!」
「ちっくしょぉぉぉぉ!」
さぁ、あっちはソウに任せておいて、俺たちは決め技を考えないとな。俺はマサトシにそう伝えると、彼は頷き答えた。
「多分だが、俺よりもヒロトの最大出力の方が多い。だから、トドメは任せた。それに対するアシストは任せろ」
「了解。ただ……」
「?」
「本当に、俺の方がデカいパワーを出せるのかな。正直、心配だ」
剣術はよかった。基本一撃必殺だし、何回も修練を積んできてるから、威力だって予想できる。だが、この力は違う。未知の部分が多すぎる。だからこそ、少し心配になってしまう。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって……」
「あのな、ヒロト。自分で自分を信じてやれなくちゃ、誰がお前のことを信じてやれるんだよ。お前は強い。だから、安心してドンと構えておけばいい」
なんともないようなマサトシの言葉。これが、俺の心に深く衝撃を与えた。うん、そうだよな。未知な物事だからこそ、自分を信じてやらにゃいかん。結果を保証してくれる人も、答えを知っている人も、いないのだから。
「わり、目ぇ覚めたわ」
「よかった」
マサトシはフッと笑みを浮かべ、俺の肩を叩いた。さすが、俺の親友だな。
「ヒロト、マサトシさん! 今だ!」
不意にソウの声がアタマに届いた。俺は慌ててそちらに視線を向ける。すると、ライゾーの巨大な体躯を、その長い身体で締め付ける龍の姿が目に入った。
やるじゃん、ソウ。この状態で、俺たちにラストを託したってことだな。
「よし、それじゃ1発かましてくるわ」
マサトシはそう言い残し、その脚を目標へ向かって進ませた。さぁ、まずはお手並み拝見といこうか。
道中、現れる敵を切り捨てながら進むマサトシ。その速さは圧倒的で、あっという間に足元へとたどり着いた。
「ふんっ!」
マサトシはその勢いを活かし、宙に飛び上がった。かなり高い所まで行ったように見えたが、それでもライゾーの膝辺りまでにしか届かない。
「高度、角度、共に十分。さぁ、始めるか」
マサトシは空中で体勢を整え、刀を脳天まで振り上げた。
「薩美流剣術・
口上と共に、青白いを纏う名刀・アマツミカボシ。今までと雰囲気が違うその技は、マサトシのとっておきだと言うことを暗示している。
さぁ、行け。
「明星・
瞬間、まるで彗星のような勢いで、マサトシは天から落ち始めた。
手に持った刀を奴の装甲から漏れる小さな隙間へと沿わせながら進む。アマツによる切れ味と、星の勢いが合わさった真っ向切り。それは、切断とまではいかなくとも、脚の機能を弱らせるのに十分だった。
「いっでぇぇぇぇぇ!」
ライゾーは苦痛の声と多量の血しぶきを上げながら、その右足を地に付け、身体を下に向ける。まさに一瞬の出来事であった。
「さぁ、あとは……」
俺が決めるだけ、か。
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