第48話 嘘三昧
「まずは君の名前を教えてくれないか!」
まずはこちらに敵意がないことを主張。さすがに攻撃しているから厳しいか……?
「ん? オラの名前か? オラはライゾーだ」
おっと、これは意外。まさか言葉が通じるとは。だが、願ってもねぇ。
「なぁライゾー! お前はどうして俺たちの村を襲う! 俺もお前も同じヤマト人で、奴らからの苦しみを共に耐え抜いていた同士なんだぞ!」
さぁ、ここでどうくる。生粋の狂人か、それとも哀れな被害者か。
「んーとな、オラ、でうす? なんちゃらって奴らにお前らを殺せって命令されたんだな! 殺したら、たーんまり食べ物を用意してくれるって言ってだな!」
「なに?」
デウス……ってデウシリウスのことだよな。ここでもかよ。もしかしたらこの宗教、ルーブ帝国の中に定着した『国教』なんじゃないか?
ユードラとの授業で聞いたことがある。国は時に、政府が宗教の力を利用するため、信仰するべき宗教を決めることがある、と。それが国教だ。俺たちの集団も、この仕組みをちょいと利用して作られた。
だとしたら、かなりまずい。信仰は、時に莫大な力を産む。生半可な力を通さないほどに。トキサダの例を見れば明らかだ。
ここからは、さらに念入りに会話を進めなければならない。
「その……君にとってデウシリウスはそんなに大事なものなのかい?」
「……」
奴は答えない。まずい。墓穴を掘ったか。
「まぁ、そこまで大事じゃないだな!」
ずこっ。まさかこんな軽く信仰を否定するとは。まぁ、よかった。それなら幾分か勝機はあるはずだ。
「じゃあさ、俺らをいじめるの、やめてくれねぇか。俺たち、仲間だろ?」
「嫌だな!」
えぇ……そこまで強く否定されると、逆に開き直りたくなっちまうよ。一応、理由だけ聞いてみるか。
「それはどうしてだい?」
「もちろん、美味いもん沢山くれるからさ! この姿になるとお腹が空いちまってなー! あいつらがくれるもんさ、すげぇんだわ! 甘いし、しょっぱいし……とにかく美味すぎるんだわ! ヤマトの食べ物なんて、食えないね!」
なるほど。この数分の会話で、わかったことがある。まず、奴は相当に単純だ。食のことしか考えてねぇし、学もない。ただ、強大な力があるだけ。
そして、奴は元の人間程度の大き何戻ることも出来るらしい。つまり、これは能力で変身した姿、ということだろう。この変身さえ解いてしまえば、俺の勝ちだ。
だからと言って、食で釣るのは無理。奴の話から察するに、ルーブは相当食文化が発展している。俺たちヤマトじゃ、敵わない。
しかし、だ。ここで俺は1つの画期的な策を思いついちまった。奴の馬鹿さ加減と俺の話術に依存するが、成功すれば確実に奴を葬れる。やるっきゃないっしょ。
「なぁライゾーくん。最近身体に悪い所とかないかい?」
「ん? まぁ、強いて言うなら腰が痛いんだな。なんか、調子がよくないんだな」
よし。まずは第1関門突破だ。
「だよね。俺は医者だから分かるんだ。そこで! 俺が特別にライゾーくんの腰を治してあげよう!」
「ホントか!?」
「ああ。でも、このままの状態じゃさすがに見れないんだ。だから、ライゾーくんには元の大きさに戻って欲しいんだ。いけるかな?」
さぁ、乗ってこい。
「うんうん! なるなる!」
来た! まんまと騙されやがったなこの馬鹿! ああ、笑いが止まらねぇぜ! おっと、隠さねぇとなぁ! お馬鹿さんには分からんだろうがな!
「……ん」
俺が必死に笑いを堪えている間際、突如ライゾーはその動きを止めた。
「どうした、ライゾーくん?」
「お前……オラのこと騙そうとしただろぉぉぉぉ!」
「???????」
ライゾーは俺たちが襲撃した時のような怒りを見に宿し、辺りをめちゃくちゃに荒らし始めた。
何故だ。何故バレた! 俺の作戦は完璧だったはず! 奴にバレるなんて、有り得ない! そんなに俺の顔は悪人ズラに見えたか!?
「オラの中のでうす様が言ったんだ! こいつは悪いヤツだって! そこで思い出した! こいつ、さっきオラの足を火傷させたってな!」
ちくしょぉぉぉ! なーにがデウスじゃ! 都合のいい所で第六感発動させてんじゃねぇよタコ! デウスなんていないんじゃ! 信仰持ってないてめぇにはな!
あ、やばい。それより避難しないと。
「くたばれぇぇぇぇ!」
奴の足が虫けらを踏み潰すかのように、刻一刻と近づいてくる。ここから逃げ出したいが、それがあまりに広大すぎるため、俺の足じゃ逃げ切れねぇ。これを食らったら、待っているのは確実な死だ。
まさか、無知な馬鹿がこれほど恐ろしいとは。無知だからこそ、人の命を奪うことに対する躊躇いが一切ない。
奴隷主共は俺たちを人として見ていなかったからこそ、簡単に暴力を振るえた。だが、こいつは違う。俺たちを仲間と認識した上で殴ってくる。低い知能が生んだ、本当の狂気。
どうする、俺。
「全く。手のかかる戦友だな!」
突如、俺の目の前に現れた稲妻。それは俺の身体を巻き込み、奴の足元から安全な所へと連れ去って行く。
こんなスピード出せるのはあいつしか居ない。
「マサトシ!」
「悪い、遅くなった」
さすが、頼りになる男だぜ!
「ちくしょぉ! どこ隠れやがった!」
ライゾーはその重い身体を、先程とは違う俊敏な動きで震わせ、四方八方にその足跡を刻む。周りなんて、見えてるはずがない。だって、味方に向かって攻撃しているのだから。
幸い、俺たちは茂みに隠れたため、バレることはないだろう。その好機を活かし、俺は小さな声で現状について説明した。
「なるほど。それはかなりまずいな」
「うん。それに、奴が俺たちの部隊と接敵するのは時間の問題だろ? もしかしたら、腹いせに仲間を殺すかもしれない」
「そうなると……打つ手なしか」
もし、仲間を総動員し、その結果奴を倒せたとしても、それは俺たちの負けだ。仲間が半分以上死んでしまえば、俺たちの街は崩壊してしまう。つまり、死者は多くとも3分の1以内にするのが望ましい。
つまり、ここで俺が最高火力を出して、奴を倒し切るしかない。なら――
「なぁマサトシ。ひとつ聞いてくれないか」
「なんだ?」
「俺が自爆特攻して、命と引き換えに奴を倒すと言ったら、どうする」
思いついた作戦。それは、溢れ出る爆発を身体の中で連鎖させ、それによって生まれた最強のエネルギーで、奴を倒すこと。火山弾の超強化バージョンってやつだ。
「……お前は、本当にそれでいいのか」
「え?」
「俺は、嫌だ」
マサトシから返ってきた言葉は、意外なものだった。あいつは冷静で先見の明がある。だからこそ、『はい』か『いいえ』で来ると思ってた。『嫌だ』なんて感情的な言葉、お前から出るとは。
「お前は誰よりも、自由を追い求めてここまで来た。あの金髪よりもだ。俺には分かる。だから、お前が自由になった世界を見れないなんて、俺は嫌だ」
言葉はやはり無骨だ。ただ、その中に秘める熱く優しい思いを、俺は受け取らざるを得なかった。
「奇跡を信じろ。俺が奇跡なんて言うなんて、変か」
マサトシはその目を遠くに向けながら言った。まるで、何かを思い願うかのように。
「いや、変じゃない」
そんな姿に、俺は焼かれちまった。
「信じてみるよ、奇跡。俺たちが奴を殺せる何かが生まれる奇跡を」
こう、返してしまうほどにな。
そうだよ。俺はどうして死ぬ前提で考えていた。まだ、覚醒したばっかじゃないか。こんな所で死ぬなんて、ごめんだね。
ある日、ユードラから名言の授業を受けたことがある。そこで心に残っている言葉『奇跡は待つものじゃない。迷い探し、起こすものだ』。
これ、その通りだわ。奇跡ってのはなぁ、そこら辺に転がってるんだ。努力、交友、命。この時の為に撒いてきた布石が、奇跡となって俺の力になる!
奇跡を、起こせ。
「グォォォォォォ!」
「!?」
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