第47話 鉄の壁

「あいつ、どうする」


「俺に分かると思うか? 超能力を使ってのバトルは、お前の方が経験があるんだから」


 クソ。どうやって、こいつを倒す。この巨大な敵を、どうやって地に伏せさす。


 こう考えている間にも、奴は進み続ける。幸い、動きは俊敏では無いようだ。一般歩兵の後ろを、ゆっくりと進んでいる。ただ、こいつが俺らの軍と接敵することになったら……多分、一撃で押し潰されて終わりだろう。


 なら、せめて俺らがターゲットを取らなければ。


「なぁ、マサトシ。聞いてくれ」


 俺は思いついた作戦をマサトシに共有した。奴らの歩兵部隊が我が軍とぶつかり、戦闘が始まったところで巨人に攻撃を仕掛ける。あとは、なるようになれ、だ。


「まぁ、それしかないだろう」


 マサトシは渋々ながらも納得してくれた。こればっかりはしょうがないとでも言いたげな目だ。だって、こんな敵相手にすることなんて、あるわけないじゃんか。


 そうして待っているうちに、周囲に発砲音が響いた。戦闘開始だ。


「行くぞマサトシ!」


「おう!」


 俺たちは戦いのフィールドを避けながら、巨人の足元へと向かう。戦闘中かつ高速で動いていれば、そうそうバレることは無い。それを気づけるようならば、両者の兵ともとっくに死んでいる。集中力不足でな。


 そうこうしている間に、 あっという間に目的地へとたどり着いた。こう見上げる視点になると、やっぱでっけぇな。とんでもないデカさだ。俺30人分くらいはあるんじゃないか。


 でも、そう怯んでいたらダメだ。そんなことをしても、何も生まれない。今ある全力を、出し切るだけ!


「喰らえ……フジヤマ変幻乃技・参! 烈火天掌!」


 溜めに溜め抜いた炎の拳で、大樹のような足を思い切り殴り込む。加速したそれは、衝突と共に大爆発を起こした。


「ぬぉぉ!?」


 遥か上空から驚きの声が漏れた。よし、効いてる!


「ヒロト、退け!」


 それに、これで終わりじゃないぜ。俺の視線の奥には、刀を鞘に差し込み、力を集中し続ける武者がいる!


「薩美流抜刀術・紫電!」


 マサトシは地を一斉に蹴り出し、太刀の速度を加速させながら、目標目掛け切り込む。こいつがヤマトにいた頃、最も得意だった剣術こそ居合切りだ。これを受け切れた奴は1人としていない。そんな神業が、大業物級の名刀で放たれる。その威力は想像にかたくない。


「せりゃぁぁぁぁ!」


 刃の速度はもはや音速にまで達し、それを咎める弊害も無い。決まった……!


「……な」


 だが、奴の足を切り捨てるには、至らなかった。それどころか、筋肉を削ぎ落とすことすら出来ていない。精々、切り傷のようなものから血が漏れる程度。


 まさか、これほどの耐久力を持っていたとは。完全に、打つ手が無くなっちまった。俺たちの最強の技を組み合わせても、届かないなんて。


「痛い、痛い……」


 ま、まずい。この流れは……


「痛いぞぉぉぉぉ!」


 思った通りだ。奴は駄々をこねる赤子のように、地団駄を踏み始めた。それは巨大な地震を引き起こし、敵味方関係なく、全ての者を地に伏せさせていく。


 それ以上に危険なのは、奴の足だ。このままだと俺ら、踏まれちまう。そうしたら、一巻の終わりだ。


「こうなりゃ、逃げるしかねぇ!」


 俺は手を前にかざし、身体を宙に浮かせながら爆発を起こした。瞬間、大きな力を受け奴から距離を取っていく俺の身体。トキサダ戦の応用、推力を使った高速移動だ。


 この作戦は上手く行き、何とか命からがら安全圏へ避難することが出来た。マサトシも、居合を移動に転化し、回避に成功したらしい。俺は急いでまさとしの所へと向かった。


「やべぇな、こいつ」


「ああ、想像以上に強い。俺の太刀、そしてヒロトの拳まで受け切られるなんて」


 まさに、唖然。その言葉が相応しい、俺たちの言葉が、奴の起こした爆風の中に消えた。


「かくなる上は」


「おお、まだ策があるのか!」


 マサトシは感心したような顔でこちらを見る。まぁ、期待していてくれよ。


 俺が考え着いた作戦。それは――


「おーい! ちょっと話を聞いてくれー!」


 秘技、お話! 奴も人間、それにヤマト人だ! 話が通じない訳ねぇ!


「おいおい、勘弁してくれよ。そんなの通り訳……」


「ん? なんだな?」


 奴は足踏みを止め、こちらにその巨大な顔を向けた。


「本当に通っちゃったよ!?」


「だから言ったろ? 策があるって!」


 よしよし、いい子だ。さぁ、後は俺の技量トークスキル次第、か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る