第46話 再び

「骨は埋めなくてよかったのか?」


「ああ。あいつをここに縛って置くことはしたくなかったから」


 俺が墓を建てたのは、あくまでシゲミツの生きた証を残すため。何十年、何百年経っても、シゲミツのことを語り継ぐためだ。


 でも、もし骨をここに埋めちまったら、シゲミツは完全な意味での自由は手に出来ない。ここは本当の故郷でもないし、何なら忌むべき場所だからさ。


 だから俺は、自らの手で全てを葬る、いや、解放する選択をした。俺の思い、シゲミツなら分かってくれるはずだ。


「じゃあ、行こう。みんなが待ってる」


「ああ」


 俺はシゲミツに別れを告げ、穏やかな風吹く墓地を立ち去ろうとした。その時だった。


「!」


 突然、地が揺れる程の衝撃と、空気を割くような爆音が響いた。これは、間違いない。敵襲だ。


「どうやらお相手さんも腹を括ってるみたいだな。この戦いでここを落としてやるって、全勢力を投入してきてるみたいだ」


「だが逆を返すと、ここを勝ち抜けばルーブ帝国に勝利出来るということ!」


「なら、やるしかねぇな。ユードラ、俺に掴まれ。超特急で屋敷まで送ってやるからよ」


「頼んだ」


 そう言って、腰を下ろし体勢を低くする。そんな俺の背中に、ユードラは軽やかな動きで飛び乗った。


「さぁ、行くぜ!」


 俺たちは駆け出した。


――


「さぁ、早速作戦を決めよう。それも、なるべく早くな」


 ユードラの部屋に着いた俺たちは、机を囲みながら会議を始めた。こうしている間にも、奴らの侵攻は進み続けている。今回も例に漏れず、先遣隊が出撃しているが、どこまで持つか……


「神文鉄火はどれだけ使える」


「どうだろうか。負傷者がいるから、使えても3人くらいだろう」


 まぁ、3人入れば十分かな。零よりマシだ。


「俺はそれより、あの異音の正体が気になって仕方がない。あの雰囲気、ヒロトが討伐したような『能力持ち』に違いないからな。恐らく、俺かヒロトじゃなきゃ、力不足だろう」


 その可能性は高い。神文鉄火じゃ手に負えないのは、トキサダの例から考えると火を見るより明らかだ。


「ならそれ以外の殲滅を神文鉄火や他の人間に任せ、能力持ちに2人を投入することにしよう」


 本来なら、鉄火も入れるべきだ。ただ、今回の敵は一般兵も侮れない。何故なら、銃の扱いに不慣れな奴隷たちでは無く、本職のルーブ帝国軍兵士を連れてくるはずだからだ。そうなると、うちの部隊では力不足になってしまう。


「じゃ、それで行こう。俺たちは先に行ってる。指揮は任せたぞ、金髪」


「金髪じゃなくてユードラだが、了解した。行ってこい。……死ぬなよ」


「無論。奴らの首、取ってくるわ」


 さぁ、行くぜ。異国からの鬼退治!


 俺たちは部屋の窓から飛び出し、戦闘の場へと足を走らせる。速く、速く、何よりも速く。犠牲が出るのは仕方がない。そうは思っているが、無駄な犠牲を出すのは違う。それは、無意味な殺しになってしまう。そんなの、許されない。


 そうして進んでいる内に、いつもの植林場(前の戦闘でボロボロになってしまい、今はほぼ跡地みたいだが)に到着した。幸い、まだここまで奴らの魔の手は届いていないみたいだ。


「おいおい……なんだあれは……」


 いきなりマサトシが歩みを止め、その手を宙に向けた。せっかく速度が乗ってたというのに、一体なんなんだ。ただ、いつも冷静なマサトシがこう言うってことは、相当だよな。あまりの衝撃に腰抜かさなきゃいいが。


 俺は心を整え、意を決してマサトシの指差す方向を向く。


「ア!?」


 俺の目に写ったのは、周りにそびえ立つ木々がまるで赤子のように思えるほど巨大な、武装を施された人間であった。


「こんなの、アリかよ……」

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