第40話 俺はもう逃げない
屋敷を出てすぐ、俺は街から漏れる煙を目にした。ここはこの街で1番高い丘だから、全てを見渡せるんだ。見た感じ、やられてるのは入口の柵だけか? また、あの例の植林場ら辺で止まってるな。あれが、自然の防護壁の役割を担ってるんだ。
ただ、押されていることは確かだ。早く行かねぇと。
俺はスピードを上げ続けながら走る。街に入っちまったら、きっと避難してきた人でごった返しだろうな。通行路だけ確保出来ればいいが。
「む!」
予想通り、住宅地(屋敷から一番近く、入口から最も遠い地区)は避難民で溢れていていた。こいつらを退かせるには……やはり声での伝達だ。
「おらおらおらー! 退いたー!」
実に古典的な方法だが、これが最も効果的。俺の強化された身体なら、四方八方に声は届く!
「あ! あれはヒロト様じゃないか!」
「本当だ! みんな道を開けろ!」
俺の叫びに気づいた誰かが声を上げ始めた。それがどんどん伝播し、気づけば俺専用の通り道が出来ていた。さすが、みんなだ。
「ありがとよ!」
「ヒロト様頑張って!」
「自由を守って!」
「当たり前だ! 俺が全部守ってやる!」
みんなの応援を一身に受け、更に加速する。いいな、こうやって応援されんの。『ヒロト様』って呼ばれるのも久しぶりだし(屋敷の関係者や生徒にはヒロトさんと呼ばれているため)。
「あれは……」
走り始めてからほんの数分後、ついに自軍の戦線にたどり着いた。皆、植林場を盾にして身を隠しながら戦っている。奴らも、この中に。
さぁ、考えろ。一瞬で。この場で何が最善の選択なのか。単純な爆発……なしだな。中途半端な破壊になって、かえって逆効果だ。
なら、百花繚乱は。うーん、どうだろ。仕留めきれなかった時がやばい。球数は多いけど、1発の威力は通常より低いからな。
じゃ、やっぱりあれを使うしかないな。破壊力も、範囲も一線を画す、あれを。
高さは助走を使った跳躍で確保出来る。あと、必要なのは落下地点か。絶対、味方には当てない。ただでさえ少ないのに、これ以上少なくなったらもう勝ち目は無くなる。最低でも、植林地を超えねぇと。柵はもうとっくに壊れてるはず。なら、敵陣は多少固まって侵入してると考えれる。一網打尽のチャンスだ。
そうと決まれば、実行するだけだ。俺は走りの勢いを上手く利用し、全力で地面を蹴りあげた。
「しゃぁぁぁ! 成功!」
俺の身体は狙い通り宙に打ち上がった。あの時よりは低いが、十分すぎる。さぁ、行くぞ。俺はもう、殺しから逃げない。現実を向くだけだ。
「フジヤマ変幻乃技・弐」
俺の言葉と共に黒いボタンが現れる。ここまで、予想通り。さぁ、後は落ちるだけだ。
上昇してから10数秒後、俺の身体は自由落下を初めた。落下地点は……完璧。ちょうど柵の残骸付近だ。
俺の身体は刻一刻と、敵――ヤマト人に向けて進んでいく。俺は今から、こいつらを殺すのだ。
上等だ。ルーブに翻弄された哀れな俺の『元』仲間よ。俺が一思いに葬り去ってやる。
「あぁ! 敵襲! 敵襲です! 空から人が落ちてきます!」
敵軍の誰かが叫んだ。と同時に、皆がいっせいに銃を天に向け打ち出す。だからさ、それ、効かねンだわ。
「終わりにしよう」
あばよ、みんな。俺はお前らを、殺す。もし来世があるのなら……平和と自由に満ち溢れた世で、もう一度生まれてこい。その時は、やりたいことをやって、好きなように生きろ。
だから、今は死んでくれ。
「奥義、火山弾」
俺は指のボタンを押した。
瞬間、俺の身体から溢れる莫大な爆発。それは同時に衝撃波を生み出し、1人、また1人とその餌食になっていく。ただ、俺はその光景を見れない。内部から見えるのは、光のみ。
爆発がどこまで拡散するか、それは分からない。でも、味方にぶつかるほどでは無いはずだ。
数刻の後、爆発が収まった。それと同時に、視界も回復する。さぁ、辺りを確認しないと。俺は周りを見渡した。
「むむむ……」
やはり、高さが足りなかったのだろうか。植林場は半分程しか焼けておらず、柵は壊せたものの、肉眼で見えるぐらいの位置まで、敵の存在が確認できちまう。くそ、期待はずれだ。
「う、撃て! 撃てぇ! 怯むな! 進め!」
あ、やべぇ。 威力不足だったから、俺が逃げるより先に撃たれちまう。今も、奴らは包囲網を形成しながら、こちらに近づいてきている。
くそ、詰めが甘かった。
「全く、お前は本当に無鉄砲だな! でも、その心意気! まさに俺が気に入ったそれだ!」
後悔している俺の目の前に現れた。1つの影。その正体は――
「マサトシ!」
「悪かったな、遅れて! まぁ、傑物は遅れてやってくるって言うしな!」
「でも、ただの銃じゃこの状況は……」
「ふん、銃なんて誰が言った? そんな雑魚いものじゃない! お前と同じ、凄いやつだ!」
ん? 俺と同じ……まさか!
「あの金髪から貰ったこの力、試してやるぜ! はぁぁぁぁぁ!」
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