第38話 来

 一体、なんなんだ。俺は恐る恐る、それに近づく。


 突き破られた窓から漏れる光で、段々とその正体が明らかになっていく。


 これは、人?


 人だ。欠損が激しいが、人だ。え、人? 人? 仲間? なかま? 死んでる? え、だれ? 


 あ、死人、俺が殺した、え。いや、いや、まだ仲間とは限らない。もしかしたら。もしかしたらだけど、ルーブ人かも。軍隊の中に、1人くらいいてもおかしくない。


 れいせいになれ。冷静に。そう、落ち着け。大丈夫。これは、敵だ。神文鉄火の誰かが、ここまで投げ飛ばしてきただけだ。さすが、やるなぁ。


 さぁ、見てみよう。きっと、目は黒色で、情けない顔してるんだろうな。服は血だらけでよく分からないけど、絶対敵軍だ。


 俺はゆっくりと、敵の死体に顔を近づけた。


 瞬間、俺の目に映る銀色の勲章。そこで全て察した。これは、敵なんかじゃない。シゲミツだ。


 必死に隠そうとしていた現実が、俺の全てを食い破る。


「あああああああああああ!!!!」


 死んだ、死んだ、死んだ! シゲミツが死んだ! 俺が逃げたせいで死んだ! 仲間が死んだ! 主力が死んだ! 友達が死んだ! 親友が死んだ! 死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ!!!


「はははははは、ははは!」


 このまま、ずっと発狂していたい。現実の腹の中で、辛いものから目を背けていたい。そして、そのまま、死にたい。


 まぁ、そんな優しいわけ、ないよな。宙ぶらりんになっていた俺の心は、すぐに身体へと戻ってしまい、現実――冷たくなったシゲミツを直視しなければいけなくなった。


「ひっ、ひっ、ひっ。し、しげ、」


 どうして、どうしてお前が死ななきゃいけないんだよ。お前はただ実直に生きて、ただ、みんなのために戦っていた、それだけなのに。


 俺が、悪かった。全部、俺が。シゲミツを巻き込んだ俺が。戦いに出ず、迷った俺が。力に目覚め、革命を志した俺が。


 あれ、俺なんのために戦ってたんだっけ。まぁ、もういいや。そんなこと。


 俺たちは、負けた。俺のせいで、負けた。革命なんて、俺には無理だったんだ。


「あ」

 

 壁にかかる短刀を見つけた。そうだ、これで。


 俺はそれを手に取り、今だうずくまるソウの元へ向かった。


「……なに」


「これを」


 短刀を手渡す。ソウは、それを抵抗なく受け取った。


「こいつで、俺を殺してくれ。しっかりさせよ。心臓と首元を。生半可じゃ死なないから。これが、俺がお前に与える最後の命令だ」


「……わかった」


 ごめん。ソウ。俺はやっぱり、お前の父に代わりなんて出来なかった。ごめん。ごめん。ごめん。


 でも、やっとだ。これでやっと、死ねる。辛い世界から、脱出出来る。


 みんな、ごめんね。弱い俺で。先に行くよ。




「みっともないな。サツミの武士ともあろうものが、他人に殺しを乞うとは。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る