第28話 何かが変わって
俺がボタンを押した刹那、身体中に巻きついていた炎が中へと戻った。そして、それらが体内で弾けあい、何かが弾ける音がした。
次の瞬間、空が轟く程の衝撃と共に、辺りが光に包まれた。爆発が起こったのだ。こちらからは視認出来ないが、確かに起こっている。俺は宙に浮いたまま、その規模の大きさを五感で感じ取っていた。
悲鳴や叫び声が聞こえない。しかし、あの距離で当たらないなんてねぇ。つまり『言葉を発する前に消し去った』ということか。
慈悲は無い。奴らに持つ慈悲など、あるものか。俺は自由の使者だ。自由を奪われたヤマトの民の味方だ。なぜ、俺らから自由を奪ったルーブを可哀想だと思うのか。いや、思わない。俺はもう、弱くない。自分の意思で、動いている。
それから数刻の時が流れ、ようやく閃光と爆音が収まった。そして、辺りを閉ざしていた煙も時期に晴れ、俺の目に視界が戻る。俺は地に足を下ろし、空を見上げた。
「……ふぅ」
俺の爆発は、どれだけの範囲吹き飛ばしたのだろう。辺りには、焼け野原しか広がっていない。心配になって、俺の住む街、元町の方向を見る。すると、植林場は少し焼けてしまっているものの、畑にダメージは行っておらず、最低限死守しなければ行けないところは守れた、のかな。
軽く見回しているけど……人っ子一人いねぇな。爆心地に近い奴らは蒸発しちまったのか。我ながら末恐ろしい火力だぜ。
まぁ、とりあえず死体の確認だけしておこう。爆発の1番外縁へ行けば、少しくらい転がっているだろ。
荒廃した大地を踏みしめながら先へ進む。すると、真っ黒に焦げた人型の物体(死体だろうが、もはや生命の跡とは思えない)が目に入った。
それじゃあ、次は俺の爆発がどこまで及んでいたか知らないとな。もし取り残しがいたら最悪だ。瀕死の奴がいるなら見つけて、もう一度あれを放つ。
俺は進み続ける。目に入るのは黒、黒、時々茶色。もしかしたら、俺は多くの命を殺したのかもしれねぇな。それで上等。あいつらは、俺らの自由を奪った。そんな奴らを殺して何が悪い。
「お」
そんなこんなで歩いていると、肌に未だ灰色を残す者を見つけた。こうも動かないとまぁ、十中八九死体だと確定しているんだが。一応、調べてみようか。
俺は死体に手をかけ、その顔面を拝む。
「……え」
死体の顔を目にした瞬間、全く意図せず、情けないほど間抜けな声が漏れた。そう、全く意図せず。そもそもこんな間抜けな声、意図して出すか。
では、俺はなぜそんな声を出したのか。ああ、俺は普通、そんな声なんて出さない。よっぽどの理由がなきゃな。
よっぽどの理由だったんだよ、俺が声を漏らすくらい。なんたって――
「なんで、目がこんなに青いんだよ」
死体に、ヤマト人特有の美しく澄んだ蒼眼がくっついていたからだ。
「は? ちょ、え? ん? あ?」
なになになに、どういうこと? なんでルーブ国の奴らにこれがついてるの? 意味が分からねぇ。全くもって理解不能だ。
あれか? 殺したヤマト人の目をアクセサリーとして入れてるとか? 確か、そんな話を聞いたことがある。
んなわけあるか。奴らは完璧にヤマト人だ。なぜヤマト人が俺らの街に攻めた? 本当に、意味がわからん。理解不能。俺はユードラから知恵を受け継いだ。それでも、わからん。
「おお、派手にやったなぁ」
後ろで呑気な声がする。ユードラだ。俺は振り向くと、無意識のうちにその足へすがりついてしまった。
「!? どうした」
「あ、ああ、あいつら、なんか、目が、あ」
「落ち着け落ち着け。それじゃ何を言ってるかわからん」
ユードラはそう言って俺の背中を優しくさする。だが、手の震えも息の荒さも一向に落ち着かない。俺はそんな身体を無理やりに動かして、死体の顔を持ち上げ、その青い瞳をユードラに見せた。
「こ、これ」
「……やはりか」
ユードラは無念そうな表情を死体の顔に向けた。何か知っているのか。
「恐らくだが、こいつらはルーブ人どもが所有する奴隷だ。奴からここを攻めるように命令されたんだろう。……敵が同じヤマトの民などと知らずに」
「つ、つまり……こいつらは……」
ああ、喉が、腹が震えて声が出ねぇ。それに、動悸もどんどん早くなる。このまま、死んじまうんじゃないかってくらいに。
「私たちと同じ、自由を選ばれた哀れなヤマト人だ。彼らを救えなかったのは、残念だが……」
「あ」
その瞬間、俺の中で何かが崩れる音がした。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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