第27話 火山弾

「……よし」


 塔へはものの数分で到着することが出来た。ここからは街の全てが見渡すことが出来る。つまり、奴らの捕捉も可能だ。


 俺は街の最前線へ目を向ける。すると――


「こりゃあ、ひでぇな」


 眼前に広がっていたのは、まるで蟻のように広がるルーブ帝国の軍勢であった。もちろん柵の中には俺らの仲間がいるが……その差は歴然だ。


 度々、赤く光る矢のようなものが見える。俺はそれで、シゲミツらの無事を確認した。良かった、まだ全員はやられていない。後は、撤退命令が降るのを待つだけだ。


「!」


 突然、どこからともなく銅鑼の音が響いた。これが撤退の合図。でも、シゲミツたちからしたら困惑するだろうな。敵がいるのにいきなり撤退なんて。よし、ここは――


「後は任せろ! 俺がいる!」


 精一杯、大きな声で叫ぶ。どうやらフジヤマは、肺活量並びに声量まで強化してくれているらしい。街半個分離れているのに、伝わるくらいの大きな声が、俺の口から飛び出たのだ。


 それが届いたのか、俺たちの軍はいっせいに柵から離れ、撤退し始めた。敵からしても奇妙だろ、こんなの。怪しまれなきゃいいが。


 俺の心配は杞憂に終わったらしい。奴らは柵を一切にぶっ壊し、領地の中へと侵入してくる。あの兵が言ってたように、そこまで横に広がってはいない。この範囲なら、楽勝。


「さ、準備をしよう」


 俺は胸に手を当て、気合いを入れる。幸い、村の入口にはお堀を掘ってあるため、到着にはもう少しの余裕があるだろう。そう、俺が技を発動するまでの余裕くらいは。


 この技は大きな情熱と繊細な冷静さが大事。だから、俺はこの言葉を何度も繰り返す。『俺は救う。自由を奪われた仲間を。そして倒す。侵略者どもを。その為ならば、殺しさえ厭わない』と。


 整った。心も身体も。行こうか。皆が待っている。自由を求めて、平和を求めて。


「フジヤマ変幻乃技・弐」

 

 俺がそう詠唱すると、右手の人差し指の側面に黒色のボタンのようなものが現れた。成功だ。後は――奴らの中心へと飛び込むだけ。


 狭い塔の上で付けれる助走はわずか。それでもやるしかない。俺は右足を小さく後ろに引く。そして、全身全霊の力を込め、地面を蹴りこんだ。


「どりゃぁぁぁぁ!」


 瞬間、宙に浮く身体。その高度はどんどんと上がり、雲にも届きそうなほどに達した。


 ここからでも奴らの姿は捉えられる。俺は身体を捻らせ、奴らの方向へ向けた。


 最大高度まで到達した身体が、重力によって落下を始める。その速度は時を経る毎に増し、留まる所を知らない。それと同時に、身体から炎が吹き出し始めた。よし、順調。


 


 俺がこの技を開発するに至った経緯は、ユードラからエネルギー論を学んだ時であった。俺の爆発はどうやら『エネルギーの放出』であるらしい。莫大なエネルギーが爆発として放出され、それが対象を破壊する。これが一般的な考え方だと。


 なるほど、確かに納得した。だが、そこで俺はこうも思っちまった。『もしエネルギーの放出を同時に体内で起こし、それをぶつけたらもっと大きな爆発が出せるんじゃないか』と。


 エネルギーを持った物体同士がぶつかると、その2つは互いに反発をし、反対方向へ力の向きが変わる。これと同じで、2つ、いや無数にエネルギーの放出を起こせれば、全方向に高威力の爆発を起こせる、そういう仮説だ。


 この仮説は正しかった。だが、威力に欠けていた。そのため、俺はたくさん食事を取り、身体を鍛えた。そして、この技を使う場合は『右手の人差し指に出来たボタンを押すことでのみ爆発を起こせる』という制約を課すことで、威力の底上げにかかった。


 ただ、あまりに威力が大きくなりすぎたため、ボタンを導入してからの試験はしていない。つまり、今回がほぼ初見。


 そんなことを考えているうちに、地面との衝突が刻一刻と迫って来る。ぶつかるギリギリまで引き付けてボタンを押す。早すぎても遅すぎてもダメ。俺の感覚を信じろ。


「ん!? なんだあれ!」


 奴らも俺に気づいたみたいで、その手に持つ銃を乱射し始めた。だが、その弾丸は俺に届かない。上に撃つ練習なんてしてねぇし、威力だって出ねぇ。それなら俺の炎でイチコロだ。


 さぁ、そろそろ。俺は呼吸を整え、心の中で数える。


 さん、にぃ、いち。


「あばよ。奥義『火山弾』」


 俺はボタンを押した。

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