第25話 新たな世界
「よし、じゃあ今日の授業はここまで」
「「ありがとうございました!」」
生徒たちの号令を聞き、俺も教室を去る。
あの日、ユードラと過ごした星降る夜から1年が過ぎた。あれからいろんなことがあった。
「お、ヒロト先生。授業は終わったのかい」
「まぁな。そういうシゲミツもお疲れ様」
シゲミツは首元に付けた銀の勲章のように眩しい笑顔でそう言った。この勲章は隊長の証だ。
これが、まず1つ目の変化。シゲミツが隊長を務める特殊部隊『神文鉄火軍』が設立された。これは俺の血を採取し、シゲミツのように適応した者のみで構成された部隊だ。これが本当に優秀で、主力部隊として数々の奴隷主を倒してきてくれた。
「攻める時が決まったらまた教えてくれよ」
「了解。いち早く伝えよう」
俺はシゲミツにそう言うと、急いで屋敷を後にした。今日は街に用がある。
「やっぱり活気あるなぁ」
街の市場はいつも通りの盛況だった。新谷を参考にしたこの場所も、初めは出店する人が少なかったものの、今じゃこの様子だ。全く、本当にすげぇや。
「すいません、紙と鉛筆を10束ずつ」
「はいよ。320丁ね」
「お願いします」
「まいど」
そうそう、貨幣経済の導入にも成功したんだぜ。単位は
さて、明日の授業の準備も出来たし、もう帰れるんだけど……ちょっと寄ってくか。
「……ふぅ」
俺が立ち寄ったのは、街の中心にある物見塔。街全体を見渡せる、イチオシの場所だ。
新しい風を感じながら、髪をなびかせ街を見下ろす。あの時は、まさかここまで大きな街になるとは思ってもいなかったな。最初、数十人で始まった村が今や500人だぞ? 普通、有り得ねぇ。
だからこそ、俺にはこの街を、みんなを守る義務がある。いつか自由を手に入れるその日まで、危険は俺たちに付きまとうだろう。上等だ。全部ぶちのめしてやる。俺らの自由を邪魔する余所者は、死ね。
「ん?」
俺の目に大きな黒い影が映り込む。しかも、それは街の中に在らず。街を守る城柵の外、森の中。まさか……
「敵襲か!」
俺は急いで塔を降り、ユードラの屋敷兼役所に向かった。急いで伝えなければ!
――
「ユードラ!」
「ヒロト君。状況は把握している」
屋敷に到着し急いで部屋のドアを開けると、ユードラは至って冷静な顔をして返答を返した。よかった。既に情報が行ってるのならまだ安心だ。
「多分、ルーブ国からの刺客だろう。目をつけられるだろうとは思っていたが……まさか軍隊を送って制圧にかかるとはな」
「ルーブ国……」
今まで俺たちが相手してきたのは、一端の奴隷主と、そのグループに過ぎなかった。だが、今回は違う。『一国』だ。今までとはレベルが違う。
「もしかすると――いや、まさかな」
「ん?」
「なんでもない。それより、住民への避難勧告ならびに鉄砲師団派遣は完了した。それに、神文鉄火軍もそろそろ到着する見込みだ」
「神文鉄火軍!」
シゲミツの部隊だ。これは強いぞ。炎の矢を放つ力『火灯』を使えるのだから。こいつらにかかれば奴らなんか……
「ただ、今回は神文鉄火に取って分が悪いかも」
「え?」
おいおい、分が悪いってどういうことだよ。
「確かに神文鉄火は強力だ。敵の数が同じなら、負けることはまず無いだろう。だが、もし敵が大勢いた場合は……」
「あ!」
「気がついたか。火灯は単体に矢を放つ。つまり、ヒロト君のフジヤマのように大勢を仕留めることは出来ないんだ。そして敵の数はざっと――800」
なるほど、点と点が結びついたぜ。でもそれじゃあ、あいつらは……
「安心して。少しでも命の危険を感じたら撤退するように言ってあるから。その場合は、頼んだよ」
ユードラは冷静な表情を保ったまま言葉を放った。
「任せろ。それに、試してみたい新技もあるんだ」
「それは心強い」
俺は変わった。あの時の、仲間を守れない弱い俺じゃない。だから、大丈夫。俺は逃げない。俺は戦う。敵を、完膚なきまでに殲滅する。
かかってこい、侵略者ども。
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