第16話 君の街まで
「よし、行こうか」
「おう」
俺たちは最低限の荷物と食料を手に、村を出発した(俺たちの村は元町という名前になった。最初の都市、という意味らしい)。
計画としては、まず1日目に村全体の様子と農業、それから食料供給率を確かめる。その日はどこかしらの民家に泊めてもらい、2日目は村民との交流を行う。やはり報告だけでは分からないことが多いからな。この身で体験しなければ。
「なーんか、前回登った時より楽だな、この山」
「うん。1回登ったことがあるからかな」
山は慣れ、って昔誰かが言ってた気がする。本当にその通りだ。足が軽いもん。
そんなこんなで、俺たちはスイスイと山を進んでいき、正午前には新谷に到着することが出来た。
「おい、あれ救世主様じゃないか!」
「うわ、ほんとだ!」
俺が村の門をくぐって間もなく、村民たちが歓声を上げながら周りに集まり始めた。皆、口々に感謝や感激の言葉を述べている。おいおい、困っちまうぜ。
「やっぱり人気だね、救世主様は」
「よせやい。みんなの力で手に入れた自由なんだから。お前ももっと堂々としてけよ」
「僕そんなに存在感ないかなぁ」
俺たちがブツブツと会話していると、恰幅の良い中年の男が現れた。ただ、奴隷主のように高級な服を着ている訳では無い。手はボロボロだし、髭はモジャモジャだし。体格以外、全くもって一般人と一緒。
「ようこそいらっしゃいました。ユードラ様から話は聞いています。私、統治者代理のナカモリと申す者です。以後お見知り置きを」
「ご丁寧にどうも。早速で悪いんだけど、今の村の雰囲気をざっと見てみたいんだ。さっきの状態にすることって出来るか?」
「ええもちろん! おーいみんなー! 業務に戻ろうー」
ナカモリさんがそう言葉を発すると、さっきまで集まっていた村民たちが一斉に作業へと戻って行った。なるほど、かなり手馴れてるな。
「まずは農業を見てもらいましょう。こちらへ」
俺たちはナカモリさんに導かれ、村の中へと進んでいく。
「こちらになります」
そこでは、皆が協力して農業に勤しむ、理想的な労働体系が完成していた。水撒き、雑草むしりなど様々な作業が分担され、重労働に従事している者こそいるものの、その顔に苦痛は無い。
「すげぇ……こんな農業、どうやって成し遂げたんだ」
「私自身、元々いたところでは農業をやらせてもらっていました。そのため、効率的なやり方は存じ上げております」
ナカモリさんは少し恥ずかしそうに言った。すげぇよ、これは本当に。
「さて、もうそろそろ3時ですよね。労働は一律3時で終了にしているんです。そして、ここから面白いものが見れますよ」
「ほう。ぜひ見せてもらいてぇや」
「ええ。それでは少しお待ちください」
俺はそれまでの間、椅子に腰をかけシゲミツやナカモリさんと話をすることにした。
「でも、本当にすごいですね」
「お褒め頂き光栄です」
「ここまで村を発展させるのは相当大変なはずです。どうやってここまで?」
「それはひとえに、皆が頑張ってくれてるからですよ。皆、今まで奴らのせいでやりたくも無いことを永遠とさせられて来ました。しかも、その利益は奴らに持ってかれる」
ナカモリさんはその穏やかな顔を少し歪ませて、口をぎゅっと結んだ。その目には、静かな怒りが滲んでいる。
「でも今はどうです。採れた作物はみんな自分たちの食料になりますし、農業以外のこともやらせてくれている。これも、ヒロトさんを初めとした様々な方のおかげです。感謝の意を評します」
ナカモリは頭を深深と下げた。
「ナカモリさん、頭をあげてください。1度自由を手にした身の俺らは皆仲間です。つまり、今俺らが生活出来ているのは、みんなのおかげなんです。こちらこそ、ありがとう」
「ヒロトさん……!」
俺たちは胸に熱いものを抱えながら、その手を交わした。いいじゃん、こういうの。なんか、すっげぇ自由を感じる。
「さて、そろそろ準備が出来ましたかね。こちらに来てください」
おっと、そういや見せたいものがあるって言ってたっけ。せっかくなら見せてもらおう。
「こちらになります」
「これは……」
俺の目の前で行われていたのは、各々が商品を陣地に広げ、それを物々交換でやり取りする、いわゆる『市場』であった。
「週に1度、このような市を開かせて頂いてます。新谷では、元々の土地で自分がやってた仕事、得意だったことに取り組む時間を作っておりまして、そこで入手した物品を皆で売買するということを行い、微小ながら経済の実現を可能にしました」
これは本当にすごい。まだ何も整備されていない中で、僅かながらも経済を成立させるとは。それに見る限り、盗みなども起きていない。あれか、厳しい時期を乗り越えた仲間だから、ものを盗むという選択肢さえないんだ。
「どうです。活気あるでしょ」
「ああ、本当にすごいよ」
「さて、そろそろお開きにしましょうか。本日、1軒の家をご用意しましたので、そこにお泊まり下さい。何分狭いですが……」
「いえいえ、お気になさらず。僕とヒロトもそういうの慣れてますんで。ね」
「ええ。お気遣い、ありがとうございます」
俺たちは用意してもらった宿へと向かった。
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