第14話 Re:Re:

「てめ……俺が奴隷じゃねえってのは分かってるはずだろ」


 こいつは利口だ。だから、今の爆発の主は俺だって理解出来るはず(俺以外有り得ねぇからな)。そんな奴が、奴隷でいられるかよ。とっくに雇い主殺してるわ。


「もちろん。ルーブ語に反応を示していた時点で気づいていましたよ。今のは単なる皮肉です」


 そう言ってジュインは鼻を鳴らした。ムカつくな、こいつ。こっちが鼻につくっての。


「何が言いてぇ」


「君もやってる事、私たちと変わらないよ、と言いたかったのです」


「……は?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが発火した。腸が煮えくり返るとか、そんなちゃちなものじゃない。全身を巡る身体の血が沸騰して、身体の中の物全てが燃え尽きるような感覚。それは最早、怒りでは無い。


「てめぇ! 何が言いてぇ!」


 胸ぐらを掴み、床から引きずりあげる。それでも、奴はその気持ち悪い笑顔と敬語を崩さない。


「簡単な話です。私たちは確かにあなたたちを使役し、時には苦しめたかもしれない。でも、あなたたちだって私を苦しめているではありませんか。あなたたちも、結局私たちと同じなのですよ。殺しましたよね、あの男の子」


 ふざけんな。俺とお前が一緒? なわけあるか。


「ちげぇよ! 元はと言えばお前らが先に俺らを」


「お前らが、なんです? 結局、人殺しをしているのはあなたたちだ。我々は直接的に手を下していない分、あなたたちよりマシでしょう」


 うぜぇ。うぜぇ。なんなんだよこいつ! なんでこんなに腹が立つんだよ!


「それにもし後先が関係あるとしたら、私たちの仲間があなたを殺しても文句はないでしょう。そうですよね、仲間が殺されたんですもん。殺して当然ですよね。だって、あなたたちもその理論を振りかざし、残虐な行為をやってる訳ですから」


「ぐ、ぐ……ぐ」


 クソがクソがクソが。俺が、俺たちが正しいはずなのに、なんで言葉が出てこなくなるんだ。頑張れよ、俺。


 このままじゃ、あいつが正しくなっちまう。


「あなたたちはただの残虐な殺戮者だ! 私たちと同じゴミ人間だ! 正義を掲げている分、余程タチが悪い! お前は一生、この私たちを殺したという汚名を背負って生きていけ! 俺は呪いとなってお前の元に住み着くからな!」


「う、う、うぉぉぉぉ!」


 俺は奴を突き飛ばし、わけも分からず叫んだ。理由すらない。ただ、叫んでしまった。


「はは、ははは! ざまぁみ」


「黙れ」


 ぱん、後ろから銃声が鳴り響いた。それと同時に、あのクソ野郎が地に倒れる。


「大丈夫か」


「ゆ、ユードラ……」


 ユードラは銃口にふっと息を吹きかけ、奴を睨んだ。奴は既に息絶えており、その目に生気は灯っていなかった。


「よかった、外傷は無いみたいだね。ごめん、銃の実践をしたくて少し離れてしまった」


 ユードラは申し訳なさそうな顔で笑った。とりあえず、見つかってよかった。


「ああ……それより、上は?」


「シゲミツ君が上手くやってくれてるよ。あいつ、本当に銃の腕を上げてね。もうすぐ方がつくんじゃないかな」


「それはよかった。なら、すぐ上に」


 加勢しに行こう。俺はそう言おうとしたはずだ。なのに、何故か言葉が出なかった。どうしてだ?


「うん。急ごう」


 ユードラは俺を置いて行ってしまうような勢いで階段を駆け上がる。やべ、変なこと考えてる暇はねぇな。早く行かないと。




「た、助けてくれ〜!」


 上に上がった瞬間、叫び声が俺の耳を刺激した。それは、俺らの仲間じゃない。ルーブ語――敵兵だ。


「待て〜!」


 仲間たちが銃を片手に追いかける。あの距離じゃ照準が合わねぇんだな。よし、ここは俺が。


「爆ぜろ、フジヤ」


 俺がそう詠唱しようとした、その時だった。詠唱が止まった。俺の意識の外で。


 おかしい。なぜ言葉が出ねぇ。なぜ口上を最後まで言えねぇ。いや、最悪それはなくてもいいよ。でも、なぜ『爆発を出せ』ねぇんだ。それは、関係ないだろ?


「どけぇ! 僕が仕留める」


 この声はシゲミツだ。俺はひょいと奴から身体を避ける。


「ぐばっ!」


 シゲミツの放った弾丸が奴を貫いた。敵兵は口から血を吹いて倒れ、動かなくなった。


「いっちょあがり。ってヒロトじゃん!」


「ああ。どうだ、終わったか?」


「バッチリ。今倒した奴で最後かな」


「それはよかった」


「どうした? 何か元気がねぇな。せっかく犠牲無く作戦を遂行出来たのに」


「いや、別に」


「じゃ、さっさと仲間たちを救いに行こう! そして宴会だ!」


「おう」


 シゲミツは上機嫌で廊下を走っていった。俺はそれをぼんやりと眺めている。


 おかしい、何かが。

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