第13話 隠し部屋

 俺の指から飛び出したのは、ほんの僅かなちっぽけな火の粉。影が吹けば消えてしまうだろう。


 もしそれが本当に火の粉なら、だけどな。


「ん? なんだこれ」


 気だるそうな見張りの1人がそれに気づいた。目の前にやってきた珍しき現象に、思わず手を伸ばしてしまう。


 彼はゆっくりとその光に手を触れた。


「なんだ、なんでも無」


 瞬間、奴を中心として煌びやかな爆発が発生する。その無慈悲な炎は最後の言葉さえ許さない。辺りを焼き尽くせるだけ焼き尽くす。その空間に、命が存在することなど出来ない。


 それが収まる頃には、もはや見張りの形など残っておらず、屋敷の入口に大きな風穴を空けていた。


 好機。この一瞬生まれた猶予。逃して溜まるかっての!


「全軍突撃! 敵を見つけしだい射殺せよ!」


「「「応!」」」


 俺の合図で、仲間たちが一斉に屋敷内へと進軍する。その手には銃、剣。前回とは大違いの豪華な装備。一瞬で片をつけてやるぜ。


「前方に敵発見」


「くそっ、奴隷どもの反乱か! 銃でぶっ殺してやる」


「誰が奴隷だとぉ! 舐めんな、死ねぇ!」


「ぐほぉ!」


 すごいぞ。急所を1発で射抜いた。これはだいぶ訓練が行き届いているな。期待が持てる。


「どんどん進め! 奴らを1人も逃すな」


「ヒロト、この広い屋敷を皆で同じ方向に進むのは効率が悪い! 分隊方式を採用すべきだ」


「一理ある。お前に任せるぞ」


「よっしゃ!」


 確かに手分けした方が早いな。銃を持った仲間は8人。最低でも2対3対3の部隊を作れる。そうすれば負けはないだろう。


「ユードラ、俺たちはここで……」


 戦いが一段落するまで待とう、そう言おうとしたのだが……ユードラがいねぇ。


 弱ったな。ユードラが殺されちゃ、いくら勝利したとしても後が無くなっちまうのに。こうなったら俺が探しに行くか。


 俺はシゲミツたちが進んでいた道を少し外れて、残党狩りを兼ねたユードラ捜索を行うことにした。無論、多少の敵なら対処出来る。徒手空拳でも、フジヤマでも。




「だいぶ進んだが……」


 あれから、敵を1人も見かけない。もうシゲミツたちが殲滅しつくしちまったのか。


 そんな風に思いながらふと地面を見下ろしたその時、俺の目に奇妙な物が写った。


「なんだこれ?」


 それは、なんてことない道にかけられた1枚の黒い布であった。地面の色と若干の差異があるが、よく見分けないと分からない。


 怪しいな。俺はそう思い、その布を退けた。すると……


「やっぱり、隠し階段だ」


 そこにあったのは、地下に伸びる数十段の階段であった。地下室か。もしかしたら、残党がここに隠れてるかもしれねぇ。そう思い、俺は階段を降り進んで行った。


 その階段は思ったよりも短く、僅か20数段で終わった。そして、開けた部屋にたどり着いた。少し薄暗いが、目はまだ見える。


「く、来るな!」


 突然、奥の暗闇から甲高い声がした。ルーブ語だ。目をやると、それは確かに小さな男の子であった。ただし……ヤマト人ではない。


「この先に何かあるのか」


「ぜ、絶対言うもんか。それより、俺は貴様を殺す」


 男の子は慣れない手つきで地面にあった銃を拾い、こちらに向けた。


「悪いな、坊主。こっちも本気なんだ」


 俺は指を男の子に向けると、彼が銃弾を放つより先に光弾を生み出し、男の子に向けて飛ばした。


 爆発音が辺りに響き渡り、生命を跡形も無く消し去った。


「あらま、隠し部屋の隠し部屋」


 爆発は同時に、部屋の壁をもぶち壊してまった。そしてそこから、新たな部屋の道が開けた。


「ははは。相変わらず奇天烈な技を使いますな。これだから奴隷は嫌なのです」


 再び、俺の耳がルーブ語を聞き取った。奥の部屋だ。俺は恐れることなく先へと進む。


「お前は……」


 進みきった先に俺が見たのは、見覚えのある顔――ジュインであった。


「お久しぶりです、ユードラ様の奴隷」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る