第12話 ファンファーレ

「おはよう」


 次の日、ユードラはなんともないような顔で俺を起こした。シゲミツはもう目を覚ましていたらしく、そこにいなかった。


「今日から遠征の準備をするよ。ヒロト君には携帯食料の準備をしてほしい。既にシゲミツ君が向かっているから、詳しいことは彼に聞いてくれ」


「了解」


 俺はそれだけ言って、ユードラの部屋から立ち去った。本当は聞きたいこともあった。昨日のあの質問は、どんな意図があったのかって。でも、俺はそれをしなかった。何か分からないけど、しちゃいけない。そんな気がしたんだ。


 そんなことより、今は仕事に集中だ。初の対外遠征、絶対成功させる。


――


 それから、俺はシゲミツと共に精一杯仕事をこなした。俺たちだけじゃない。ユードラを初めとした仲間全員が、今回の戦いに向けて尽力してくれている。


 一生懸命仕事をしていると、時の流れも早くなるものだ。そんなこんなで、あっという間に決行の日になった。


「さ、ヒロト君。救世主としての言葉を貰おうか」


 早朝、俺は武装した仲間たちを前にして、台の上に立っていた。ユードラ曰く「救世主さまの言葉があった方が指揮が上がる」とのこと。確かに一理ある。俺に出来ることならなんでもやってやるぜ。


 俺は息を大きく吸って、言葉を紡ぎ出した。


「皆、これまでよく頑張ってくれた。まずはこれまでの労働、訓練。そして作戦の協力に感謝したい」


 民衆から拍手が起こる。俺はそれを浴び、静寂の訪れと共に続けた。


「今回は同士解放作戦である。もしかすると、見ず知らずの他人を助けるために戦うなど御免だ。そう思う者もいるかもしれない」


 身体に自然と力が入りやがる。どくどくと血液が身体を走り回っている。俺は身体に炎を宿しながら、拳を握り叫んだ。


「だが、我々は他人である以前に、誇り高きヤマトの民だ! 奴らに運命を翻弄されし被害者だ! そして、解放を求める自由の使者だ! 彼らを救うのに何の理由が必要だ! 否、必要ない!」


「「「おう!」」」


「絶対に死者を出さない! 皆で生きて仲間を解放する! いいな!」


「「「うおおおおおおお!!!」」」


 敷地内に響き渡る雄叫び。これが、作戦開始の銅鑼となる。さぁ、出陣だ。


――


「そろそろだな」


 奴らの門を見渡すことが出来る林。俺たちはそこに身を隠している。総勢30名弱の大所帯だが、バレてはいない。そもそも門に近づく奴隷さえいねぇ。バレるはずがねぇな。


「ただ、もう少し待つとしよう。奴隷や奴隷監督共が完全に帰った時を狙うんだ」


「ああ、分かってる。暖も必要なさそうだしな」


この気温なら夜も粘れそうだ。暖かな気候でよかった。火を炊く必要も無い。




「よし、行くか」


 辺りがすっかり暗くなった頃、ユードラが呟いた。人の気配は領内から既に消えている。今が絶好の機会、そう読みとったんだな。


「うん。それがいいと思う」


「じゃあ、やるぞ。はぐれるなよ」


 目立つため、松明は点けれない。光源は月明かりのみ。だから余計に、周囲の状況に気を配らなきゃならない。


「それでは、出発」


 俺はゆっくりと林からその身を出し、領内へと侵入していった。


「静かだな」


「うん。奴隷労働は体力使うからね。俺たちも早寝だったし」


 予想通り、領内をうろつく者は誰も居なかった。それどころか、生命の気配すら感じさせない。逆に罠じゃないかって心配しちまうくらいには。


「まぁ、予定通りいければいいだろう。私自身、そんな心配はしてないさ」


「ああ、ここはあくまで準備段階。本番はまだ先だ」


 俺たちは歩みを続ける。



「!! 全員1度止まれ」


 先頭を歩いていたユードラが静かな声で静止を促した。


「どうした」


「前方に屋敷発見。そして、入口には2人の門番が。銃を装備しているな。だが、眠たそうだ」


「こちらを捕捉しているか?」


「いや、していない。私たちがいるのはちょうど月明かりから外れているからな。無事なのだろう」


 よかった。この作戦は奇襲を成功させないと始まらないからな。まずは第1関門突破と。


「じゃ、作戦通り行こうか」


「射程は足りてる? ヒロト」


「ああ、もちろん」


 俺は右手を大きく前に伸ばし、拳から人差し指のみを突き出す。


 角度、十分。向き、十分。気合い、最高。


 さぁ、やろうか。


 俺は腹にぎゅっと力を込めて、心臓から炎を吹き出させる。そして、その火炎を決意の言葉と共に解放した。


「爆ぜろ」

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