第11話 夢のあと

 あの後、疲労等の理由から結局次の日に会議を行うことになった。場所はユードラの部屋。前回と同じように、シゲマサも参加だ。


 俺は朝イチでシゲミツと合流し、ユードラの住む屋敷へとたどり着いた。そして今、まさに会議が始まろうとしている。


「みんな集まったね。じゃ、始めるよ」


 ユードラの合図で、あの大きな地図が再び広げられた。


「昨日わかったことは沢山ある。1つ、たどり着くまでの道が険しい。2つ、屋敷は奴隷労働が行われている敷地内にあるが、警備が頑丈」


「それに、屋敷がだいぶ広いな。勢い任せの殲滅は厳しそうだ」


「人に自然に建物に……三重の障壁があるのか。話を聞いただけでも、厳しそうってのが分かる」


 シゲミツが喉を唸らせながら、頭をかき始めた。この反応になるのは予測済みだ。俺たちだって、お前の立場ならなってるよ。


「でも、不可能では無い」


「そうだね。何か解決策があるはず。状況をゆっくり整理してみよう」


 それがいい。冷静なシゲミツがいてくれて良かった。前回は少し浮き足立ってたけど、今回は落ち着いている。


「まず、足腰の弱い女、子供は連れて行けないぜ。だから、必然的に使用できるのは男になる。ユードラ、何人だ」


「25人。そのうち銃を満足に使えるのが7人。不慣れが1人。その他は剣を持たせる」


「まぁ、及第点って所かな。剣が銃にどれだけ抗えるのか未知数だけど」


 うむ。正直言って、剣と銃の戦力差はだいぶ大きい。俺たちが使っていた刀ならまだ良かったが、幾分不慣れなものだから。


「やはり奇襲での削れ具合によるね。そこで5人ほど落とせれば、勝ちは固いか」


「ヒロトはどうする? 前線で攻めるのはおすすめしないけど」


「私も同感だ。せめて後方から、な」


 ユードラはたしなめるような顔で言った。大丈夫だって、そんぐらい分かってるよ。


「ま、後方支援って事でいいかな。ただ、多少は前に出れるよ。この力を使う時、どうやら多少の傷なら癒えるらしい」


「それは本当か!?」


 おいおい、食い気味すぎるぜユードラ。とりあえず、俺は前回の傷が消えた経験について話した。


「なるほど。それは素晴らしいな。じゃ、中盤位まで出ても構わないよ」


「了解」


「奇襲をするなら事前の準備が必要だね。前日から待機するのはどう?」


「多分、朝早くに出れば大丈夫だろう。夕方頃に着く。突入の前に少し休憩してからだな。ユードラ、保存食は」


「問題ない」


「暖は俺の爆発を利用して炎を生み出して取ろう。弱めるくらいのコントロールはできるはずだ」


「いいねぇ!」




 その後も話し合いは続いた。互いが意見を持ちあって、それをぶつける。時間的効率がいいわけじゃない。それでも、最善な策を作るために必要な行為だ。


「……できた!」


「うん。これは私も胸を張って良策だと言えるよ」


「よっしゃ!」


 俺は大きく伸びをしながら、拳を突き上げた。辺りはもう真っ暗。ざっと半日は話っぱなしだった。


 それでも、今の俺たちは満足感に満ち溢れていた。まるで、自由を手にした時のような――


「決行は1週間後でいいね。私とシゲミツで皆に伝えておくよ」


「了解。頼んだぞ」


「任せろ!」


 シゲミツはその綺麗な歯を輝かせながら頭を振った。こういう時、普段から仲間と距離の近いやつがいるとありがたい。


「さて、今日はもう遅いだろう。ここに泊まっていけ」


 ユードラはその眠そうな目を擦りながら言った。確かに今から家へ帰るのは危ないかもしれんな。今、野犬にでも襲われたら勝てる気がしない。それだけ疲れている。


「え! いいんすか!」


「もちろん。2人には世話になったからね。部屋は一緒だが、いいよな」


「もちろん。それじゃ遠慮なく」


 さて、せっかくだからゆっくりさせて貰うとしよう。奴らが使っていた高級な寝具で寝るのも、たまにはいいよな。


――


「起きてるか」


 それは、夜も深くなり、睡魔が俺を食いかけていた頃だった。誰かの声がする。だが、小さすぎて声色では判断できねぇ。


 俺は隣で寝ていたシゲミツの方を見る。違う、こいつじゃない。こんな口をおっぴろげながら爆睡してる奴が出す声じゃなかった。となると……


「私だよ、ユードラ」


 ま、そうなるよな。俺はシゲミツを起こさないように、ゆっくりとユードラの方へと移動した。


「どうした。こんな遅くに」


「いや、少し話がしたかったんだ」


 ユードラは堅い顔で言った。おいおい、どうした改まって。


「私が君の力を解放してから、約1ヶ月。色んなことがあったよな。それを通して、君の人生はどう変わった?」


「俺の人生?」


 ユードラはこちらを見つめたままだ。難しいことを聞きやがる。でも、ここは正直に思ったことを言うべきだな。


「そうだな。俺はお前みたいに頭が良くないからよ。簡潔に言うと、楽しくなった、かな」


 その言葉を聞いて、ユードラはふふっと笑った。外から漏れた月明かりに照らされ、神々しくその笑顔は、この世のどんなものよりも美しい、そう思わせるほどだ。


「同じだな。私も、楽しい」


 楽しい、か。俺が言った時はなんともない言葉のように思えたのに、ユードラから聞いた途端、それがとてつもなく意味のある言葉のように思えた。


 それはユードラが沢山言葉を知ってるからとか、そういう事じゃない。そんなちっぽけなことを超えた何かだ。


 この感情、一体なんなんだろうな。マサトシ、お前と一緒にいた頃でも、感じたことはねぇもんだよ。


「それだけだ。おやすみ」


「うん、おやすみ」


 俺は再び、自分の持ち場へと帰る。心に芽生えた謎の感情を持たせて。そして、そのまま深い眠りに落ちた。

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