第9話 作戦会議
「おーいヒロトー!」
あの改革から数日後。畑で農作業をしていた俺の元に、シゲミツがやってきた。あいつ、最近はユードラと一緒に銃の訓練をしていたから
あんまり見かけなかったんだが……どうかしたんか。
「ユードラさんから招集がかかったぞ。場所は例の屋敷だって」
「お前も一緒か」
「もちろん! 行こう」
シゲミツが一緒? ということは統治関係では無いはず。ならば一体?
――
「ようこそ」
ぶっ壊してしまった屋敷の門の前で、ユードラが俺たちを迎えてくれた。ちょっと痩せたか? 激務ゆえか。
「どーも。そういや、ユードラはここに住んでるのか」
「一応ね。潜入してた時に使ってた部屋もあるし。さ、上がって。案内しよう」
俺たちは屋敷の門を潜り、中へと向かっていった。
「ここが私の部屋」
屋敷の2階の1番奥。隅の隅っこにユードラの部屋はあった。俺は促されるままその部屋に入る。
「うわぁ……」
部屋を開けた瞬間俺の目に飛び込んできたのは、見たこともない様々な器具であった。何かが入った硝子瓶や、分厚い書物、言葉で表せないような形状をした物など、本当に色んな種類の物が所狭しと並んでいた(それでいてきちんと整理されている)。さすが学者。思わず感嘆の声が漏れる。
「今日呼んだのは他でもない。今後についての話だ」
ユードラはそう言って、部屋の中央に置かれた机に、ある大きな紙をバンと叩きつけた
「これは?」
「私たちが今いる『イディアシナ』の地図さ。ここの持ち主が持っていた物さ。だから、どこに奴隷主たちの土地があるのか分かる」
「とすると」
「ああ。次に攻める所を決めよう」
ユードラはそのハッキリとした顔をニヤリと歪ませた。村の内政がひと段落着いたから、ということだろう。
「いいね、賛成! せっかく俺たちも銃の特訓してる訳だし、そろそろ1発やっちゃおうよ」
シゲミツは嬉しそうな声を出しながら肩を回した。そうだ、俺たちには前回と違って、ちゃんとした武器がある。心強いったらありゃしねぇ。
「今の軍の戦力も考えると……手頃なのはここか」
ユードラが指さしたのは俺たちの村からさほど遠くない、少し大きな集落であった。奴隷主の名前はジュイン、と書かれている。
「土地の広さはここより少し広い程度。ただしどれだけの敵がいるかは分からない」
「まぁ、いいんじゃないかな。妥当な選択だよ」
シゲミツは楽観的な顔をして言った。だが、俺はそれにあまり賛成出来ない。
「心配だな」
「どうして?」
「確かに土地は小せぇよ。でも、だからと言って敵が少ないとは決めつけられねぇだろう。勝つことはできるかもな。でも、それじゃダメなんだ。膨大な対価を払う勝利は、必要ない」
「ふむぅ……」
シゲミツは顎に手を当て、困ったような顔をしながら俯いた。まぁ、人命がかかってるわけだし、これくらい真剣に議論しないと。
「なら実際に行ってみよう」
「え?」
ユードラさん、またいつものトンデモ発言すか。でもこいつ、絶対根拠があるからなぁ。
「私を奴隷主、ヒロト君を奴隷役にして潜入するんだよ。奴隷主たちは見栄っ張りだから、見学とでも称せば簡単に潜入できるよ」
ユードラは棚から眼帯を取り出し、右目に装着した。おお、これなら完璧にルーブ人だ。バレる要素がねぇ。
「まあ、賛成だ。追い返されても道の予習になるからな」
「じゃ、決定。明日の朝行こう」
……ん? 明日? それはあまりにも急すぎやしませんかね。
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