第22話 あの日の想いを

○○○




 あの日───王城のゲストルームにてミカ達三人と話し合ったあの日のことだ。

 俺達は思い思いに話し合い、それぞれの行末を語り合った。

 彼女達は三者三様に進むべき道を見つけたようで、俺達は本当の意味での別れを迎えようとしていた。

 

 俺は俺の道を行き、彼女達は彼女達の道を行く。互いに決して交わることのない人生が、この先死ぬまで続く。

 これから続く人生に、彼女達がいないという現実を受け入れるか、否か、楽しく話していたあのとき、俺はずっとずっと悩んでいた。

 

「三人はさ、俺に償いたいって言ってたよな? だったら、これからする俺の頼みを聞いてはくれないか?」


 そんな最低なセリフと共に、俺は彼女達を呼び止めた。

 死ぬほどの緊張を押し殺し、マジックバッグに手を伸ばした。その瞬間でさえ、俺は悩んでいた。


 言ってしまって良いのか、それとも己を押し殺すか。

 その言葉を言ってしまえば、彼女達を縛り付けることになる。


 本当に俺はそれでも良いのか───

 何度も何度も、何度も何度も、己に問い掛けた。

 

 けれど俺は結局、マジックバッグから腕輪・・を取り出し、三人へと渡した。


 彼女達の手元の腕輪が鈍く光を放った。

 腕輪の正体はクロアに頼んでいた魔導機だ。

 小型化した《鶴翼の導きクレイン》をさらにコンパクトにし、マジックバッグに入れずとも身につけることのできる、腕輪型にした物であった。


 当然ながら三人は俺が渡した物が何かをわかっていない。


「俺の渡した腕輪は、瞬間転移の魔導機だ」


 なぜそのような物を───彼女達が不思議そうな顔をした。


「ミカは、償いの旅に出る。アンジェは、講師になる。エリスは、これからも俺と、訓練をする」


 かつて俺は彼女達と離れてしてしまった。

 だからこそ、よりいっそうわかることがある。

 彼女達と再び離れてしまうことは───

 

「ミカも、アンジェも、エリスも、これからは自分の道を進むんだと思う」


 振り返れば、今でもあのときの胸の痛みを思い出す。


 彼女達との完全なる別離を選ぶだなんて、そしてその先に彼女達が俺ではない誰かの隣にいるだなんて……想像するだけで胸を掻きむしりたくなる衝動に襲われるのだ。

 

「三人がどこで、何をしていたとしても、必ず俺に会いに来てくれ」


 彼女達に渡したその腕輪は最先端技術が注ぎ込まれた、瞬間転移の魔導機だ。


 そうだ。

 極論、これはただの魔導機に過ぎない。

 けれど、それ以上に───


「もしも、今でも俺と同じ気持ちであるのなら、それをこの場で身につけて欲しい」 


 俺のドロドロとした煮えたぎるような独占欲とエゴとを練り込めた、彼女達を俺の元へと縛りつけるための鎖であった。


 けれど、それがどうした。

 そんなことはわかっている。


 俺には───全てを理解した上で先に進む必要があった。


 気持ちを伝える機会というやつは、何度も巡っては来ない。大事な気持ちを伝えるチャンスというやつは、逃してしまえばそれで終わりなのだ。


「俺は、お前達を誰にも渡したくないんだ」


 言葉は核心に近づく。


「これが終わりだなんて、俺にはもう耐えられない……」


 三人は呆気に取られた表情を浮かべたかと思えば、ボボっと顔を真っ赤にした。


「つまりだな……」


 言葉にしないだなんてのは怠慢だ。

 言わずともわかってもらえるだなんてのは幻想だ。それに俺の言葉一つで、自分の道を歩き始めた彼女達を翻させられると思うほど自惚れてもいない。


 だけど俺達を繋ぐ絆を───それがたとえどれだけか細く脆くとも───互いに大事に護っていくことが出来たなら……。


「俺も、みんなも、この先どうなるかはわからない」


 俺達は全知全能ではない。

 未来がどうなるかなんてわかるわけがない。


「けど、それでも……確かなことってのはあるんだ」


 今から思えば悩んではいたが、確たる答えは既に己の内にあった。


「ミカ、アンジェ、エリス……俺はお前達のことが好きだ」


 その日、俺は、彼女達にようやく己の気持ちを伝えることができた。




 







─────────

かなり悩みながら書いてます

少し前の所で書き直す部分があります。

それからこちらも多少修正もします。

いろいろとお許しを……。

一種のハーレムと思ってくださいましたら概ね間違いはありません。

これまで長きに渡ってお付き合いくださり、また応援してくださった皆様ありがとうございます。まだ続きますが……











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