第17話 勇者はそこにいる彼らの夢をみるか②

◇◇◇




 しかし……どれだけ罰を課されようが、勉強であれスポーツであれ、趣味であれ、これまでに一度たりとも努力したという経験もなく、山田のような根性もない竜宮院には、彼と同等の訓練をこなすことはやはり不可能であった。



 ギルバートはあの一件を切っ掛けに枢機卿を辞し、竜宮院を監視し、彼の動向を見守るために大司祭として王都に残っていた。


 それは竜宮院の訓練が残り二週間となった頃であった。今回もまた複数の教会関係者や、マディソン達と共に、竜宮院の処遇について話し合いが行われた。

 ギルバートが円滑に進めたために、話自体はすぐに終わった。

 結論から言えば、彼が再び責任を持つということで、彼が用意したアイテムを使用する許可を得たのだった。




◇◇◇




 翌日、竜宮院の目の前には黒い首輪が用意されていた。

 首輪はギルバート達によって竜宮院専用にカスタムされたワンオフアイテムであった。

 首輪には三つの石が嵌め込まれていた。

 それぞれの石は、異なる効果を持っていた。

 一つは恐怖心を完全に取り去る効果を持ち、もう一つは疲労を感じなくする効果を持ち、最後の一つは強烈な高揚感をもたらす効果を持つ石であった。

 彼は訓練になる度に、ギルバート謹製の黒い首輪の装着を余儀なくされた。

 初めは高揚していた竜宮院も、二度ほど首輪の効果を経験すると、すぐさまその異常さに気付くことになった。

 しかしそれを装着しない選択肢はもはや残されていない。

 彼がどれだけ拒絶しようが、笑みを貼り付けた男達が竜宮院に首輪を見せ───



「やめて、それはいやだ、それはいやだ、それはいやだ、それはいやだぁぁぁぁぁぁぁ」



 首輪が首元に近づけられると、竜宮院は涙や鼻水を流し顔中汁まみれにして叫んだ。

 自身の脳からアドレナリンやドーパミンやエンドルフィンといった様々の脳内物質がドバドバドバドバァァァと放出される感覚……自分が自分ではなくなる感覚に、竜宮院は極限の恐怖を覚え、何度も何度も首を振った。


 しかし屈強な男達が、首を振って嫌がる彼を抑え、くだんの首輪を装着させると、たちまち竜宮院はまるで別人のように勇ましくなった。


 それはもう本当に別人のようであり、誰かが「いけっ! リューグーインッ!」と命じると「うおおっ!!」という雄々しい雄叫びと共にモンスターの群れに飛び込むほどの勇敢さを見せた。


 ただ、ギルバート謹製の首輪は効果絶大であったが、恐怖心を取り除き、高揚感をもたらすといった効果は、次第に竜宮院や彼の対応に当たった者に不幸をもたらした。


 竜宮院は首輪の効果によって怖いものなしのテンションアゲアゲ、バイブスアゲアゲ状態となるたびに、感情のままにワガママに、彼は周囲の人間を傷つけるような、聞くに堪えない暴言を吐きつけることとなった。


 

 その結果───さらに一つの戒め【勤勉の戒めスロスフォビア】を追加されたのであった。




 ただし、これは竜宮院も知らないことであるが、竜宮院を恐怖のドン底に陥れた黒い首輪は、それでも本命のアイテムではなかった。

 いくつか彼が装着しているアイテムの中でも本命とされるそれは、非常に強力な効果を持つのでその使い所が限られていた。

 なぜなら安易に使用することは───




◇◇◇




 そうこうして竜宮院はようやく、当初よりさらに追加された二週間を含む、六週間の訓練を終えた。

 彼は一片たりとも喜ぶことなく、迷宮攻略に向け、死んだ瞳で城を発った。




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