第18話 勇者はそこにいる彼らの夢をみるか③
◇◇◇
城を発ってからある程度時間が経つと、彼は徐々にではあるが、元気を取り戻し、たまにではあるが彼本来の傲慢さが顔を出すようになっていた。
教会からのお付きの司祭は「これから先が思いやられるぞ」と頭を抱えた。
◇◇◇
数日を掛けて、竜宮院達は《時の迷宮》の近郊の大きな街であるレモネに到着した。
当初彼はレモネを拠点にする予定であった。
しかしそれは叶わなかった。
竜宮院によって起こされた事件は、詳細は語られなかったものの、それでも彼の功績の全ては偽りであり、権力のままに全てを自分の都合のいいように捏造し、他者を陥れることで、それらを己の功績であるかのように報告していたと発表されていた。
竜宮院に対して、そもそも悪印象しかなかった街の住人がそれでも我慢していたのは、彼が救国の勇者だからであった。
それなのに彼の功績の全ては偽りであると公表されたのだ。
レモネには未だに、彼の愚行によって傷つけられ立ち直れていない人も大勢いた。
真実を知った街の人にとって、竜宮院は、もはや勇者などではなく、敵でしかなかった。
竜宮院が街に着くやいなやいくつもの罵声が響いた。
「早く出ていけ!」
ゴツンという音と後頭部の痛みに竜宮院が
◇◇◇
そういった理由から竜宮院達は、レモネを拠点にすることを諦めた。
仕方なく彼はレモネから少し離れた小さい町───ピール村に居を構えた。
といっても彼だけが、教会や国から派遣された司祭達と共に村で過ごし、彼と組む予定のメンバーはレモネを拠点にすることが決まっていた。すると───
「どうして僕だけ! 君達もこの村に住むべきだ!! 仲間だろぉ!!」
竜宮院は当然ながら不平を漏らし、ひと悶着を起こした。
しかしながらそれもこれも大本の原因は己の過去の所業であったが彼は気付かなかった。
◇◇◇
これから竜宮院とパーティを組むメンバー達は国に集められたS級探索者達であった。
彼らが本件に参加する動機は各々で異なり、ある者は純粋に人類の脅威を取り除きたいと願い、ある者は莫大な報酬に惹かれ、またある者は迷宮にて見つかる希少な宝珠を欲していた。
そんな風に生まれも出身も動機すらも異なる彼らであったが、確かなことはS級に相応しい実力と、マディソンやギルバートに選ばれた人格を兼ね備えていた。
レモネに到着して以降の彼らは、そこらかしこで勇者竜宮院の悪行を耳にした。まさかそんなことがと疑い半分であったが、被害者の生々しい話を聞くにつれ、初顔合わせのときの竜宮院を思い出し、噂はやはり事実なのだと理解し、彼に対して大きな嫌悪感を抱くことになった。
もはや戦う以前に、パーティは崩壊寸前であったが、さすがは国から集められたメンバーであった。彼らは何とか堪え、竜宮院と共に迷宮攻略に努めてみせると決心したのだった。
しかし、その決意も最初の探索で終わることとなった。
◇◇◇
切っ掛けは、やはり竜宮院であった
六週間の訓練を終え少しは出来るようになった(?)竜宮院が、実力差も分からずにSランクで固められたパーティメンバーを扱き下ろし、バカにしたのだ。
事の発端は探索初日に起こった。
パーティのリーダー格の男性が、まずは互いの実力を確かめ、連携を見るという判断から、《時の迷宮》一階層の浅瀬にて、本格的な探索に向けた準備をしようと提案した。
しかし、自分の実力を過大評価した竜宮院は耳を貸さない。
パーティメンバーは怒りを抑え、竜宮院に対し、何度も連携するように諭した。
しかし竜宮院はそれら全てを無視した。
何なら無視した挙句、パーティを危険にも晒した。
けれど竜宮院には関係ない。
彼の脳裏には一人の戦士の姿があった。
彼はたった独りで、圧倒的な強さと驚くべき継戦能力を誇り、数多のモンスターを倒し、いくつもの迷宮を単独で踏破していたではないか。
そうだ。
あいつにもやれたんだ。
なら俺にも出来るだろう。
お前達はS級だろ?
頂点の戦士達ならそれくらいやれないわけがないじゃないか。
それなのにお前達は出来ないと答えた。
だったら───
「ははーん、わかったぞ」「もしかしてお前らはS級とは名ばかりの冷や飯食いの既に終わった冒険者なのか?」「まったく……役立たずをよこしやがって」「僕はここを踏破して返り咲くんだ」「だからやる気のないやつはここから立ち去れ」「立ち去れ」
彼はただ悪態を吐いた。
パーティメンバーがぐっと堪えることで初探索は終わったものの、翌日になると、彼ら全員が「リューグーインは背中を預けるにたる人物ではない」としてパーティを辞した。
◇◇◇
竜宮院のお付きの司祭は悩んだ。
どうすべきかとすぐさまギルバートへと連絡がなされた。
その結果、すぐさま竜宮院の住む村へと教会から厳しい表情の男性が一人送り込まれた。
彼の目的は、竜宮院お付きの司祭にとあるアイテムをいくつか渡すためであった。
一つは逃走不可能な迷宮ボスとエンカウントした際に迷宮から脱出を可能とする宝珠であり、もう一つは、とある発明家によって作られたが、未だに情報統制が敷かれている瞬間移動装置───その小型版であり、最後の一つは迷宮内に限りどんな敵からも攻撃を仕掛けない限り見つかることのないローブであった。
◇◇◇
翌日から、竜宮院と姿を隠したお付きの司祭の二人での《時の迷宮》探索が始まった。
見張りや複数の戒めによって彼は完全に退路を絶たれていた。
しかしいざ《時の迷宮》に潜ってみるとどうだろう。竜宮院も初めの内は調子良かった。
まだ一階層ということや、かつて潜った際に根こそぎ根絶やしたからか、敵の数も少なかった。
本当の問題は───
「入るぞ」
竜宮院は自惚れていた。
前回失敗したときの自分とは違う。
あれから地獄の訓練(彼比)を潜り抜けた。
そんな自信と共に、竜宮院は一階層のボス部屋の扉を開けたのだった。
◇◇◇
竜宮院を背負った司祭が命からがら村で発見されたとき、圧倒的な死の恐怖から竜宮院の美しい金髪は完全なる白髪となっていた。
現実と恐怖の記憶とで、立つ気力すら失われた竜宮院は虚ろな瞳で「しにたくない」「しにたくない」と何度も呟いていた。
彼の装備は、ズタズタに切り裂かれ、その胸には一本、腹には一本、計二本のミスリルの大槍が生えていたという。
翌々日、「回復したでしょう!」「さ! 探索を再開しますよ!」と腕を引っ張られた竜宮院は全てをかなぐり捨てて走って逃げた。
その結果、村の外で、枷となる術に引っ掛かって気絶した竜宮院が発見されたそうだ。
以降彼は、夜になると身体全てを布団で隠すようになった。そしてしばし叫び声を上げては「槍が」「剣が」「見えないよぉ」「速くて」「怖いよぉ」「ごめんなさい」「限界突破ァ」「限界、突破ぁぁ」「限界突破限界突破限界、突破ぁぁぁ」「駄目だぁ、助けてぇ」「誰か助けてよぉ」「ミカぁ」「アンジェリカぁ」「ママぁ」と呟き、しくしくと泣くのだそうな。
何というか……俺からのコメントは控えさせてもらう。
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