第2話 明日へ②
○○○
パフィの姿を探すも、彼女は既に玉座の間から姿を消していた。
しかし三人───ミカとアンジェとエリスはこの場に残っていた。各々が、この場から離れようとしている中で、彼女達は所在なさげで少し憔悴して見えた。
「やっとこさ終わったな」
彼女達の視線は既に俺に向けられていた。
俺の言葉に、彼女達はみなどこか曖昧に頷いた。
これから俺が彼女達に話そうと思っていることは、エリスの親父さんやプルさんや、教会の関係者がいる場所で話すことが憚られるものだった。
「話したいことがあるんだ。ここじゃなんだからどこか静かな所へ───」
俺が言い掛けたとき、横からぬっと現れたのはマディソン宰相であった。
「積もる話もあるじゃろうと小僧の所に来てみれば、どうも取り込み中だったみたいだな」
俺がどう答えようか逡巡していると、宰相が二、三度手を振った。
「ああ、わしのことは後回しで構わん構わん。時間はいくらでもあるからな。それより小僧、耳を貸せ」
男が男に耳を貸してこしょこしょ話とか絵面が悪いことこの上なかったが、そんなことはおくびにも出さず、彼の方へと耳を寄せた。
「今からわしについてこい。誰にも憚られず話せる部屋を貸してやる。だから、聖女様達との話が終わったら一度わしを呼べ」
どうして? と俺が尋ねる前に彼は言葉を続けた。
「パフィ姫の所に連れて行ってやる。貴様も彼女と話したいことがあるはずだろう」
何てお節介なじいさんなんだ。
一日のほとんどを訓練に費やしていた王城での生活のとき、俺の様子を頻繁に見に来て、その都度土産を持ってきたのは彼だった。
俺は、そんなお節介なじいさんが好きだった。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。俺も王都に三日程度過ごす予定ですので、都合が付きましたらお茶でもしましょう」
宰相のじいさんが、ふんと鼻を鳴らすと俺の肩をばんばんと叩いた。そして「ついてこい」とだけ告げると、ずんずんと先を急いだのだった。
○○○
宰相のじいさんが貸してくれたのは、玉座の間に向かう前にお世話になったゲストルームであった。彼の手配した侍女さんからお茶と茶請けまで用意してもらい、至れり尽くせりであった。
じいさんの職権濫用も甚だしかったが、その厚意をありがたく頂戴することにした。
華美で豪華にあつらわれた椅子に腰掛けると、俺の対面に彼女達三人が腰掛けた。
「元気してたか?」
エリスは、オルフェと共に隠れ山に辿り着いた後、疲労困憊から俺達の小屋で一晩を過ごした。それから、この
初めはセナに無視されていたが、エリスの生来の人懐っこさや真面目さのお陰で、気が付くと、ちょっとした同居人程度の扱いに格上げされていた。ただ、俺のあげたグラムを日課のように眺めては不気味にほくそ笑む姿を見て、セナですら若干ひいてしまってるのはご愛嬌だ。
ただ、問題はミカとアンジェだった。
「元気と言えば元気にしてたわ。この一ヶ月はプルさんと二人でばたばたしてたから、疲れたと言えば少し疲れたけどね」
彼女がボルダフで籠もって竜宮院対策に勤しんでいたのは知っている。その間も、これまでの空白を埋めるようにプルさんと共に過ごしたことも……。
「プルさんから聞いてるよ。本当に良かった。二人で過ごせる時間ができてよ」
俺の言葉に、アンジェが「ふふっ」と微笑んだ。
その表情は憑き物が落ちたようでもあり、どこか寂しげでもあった。
「私も元気にしてました」
答えたのはミカだった。
彼女も一ヶ月はボルダフにいたはずなのに、全くと言って良いほど顔を合わさなかった。心配になった俺は、何度か彼女の泊まる宿に顔を出したが、ほぼ毎回外出していたようで、ついぞ彼女と合うことはなかった。
「なら、良かった。ミカは、この一ヶ月間何してたんだ?」
俺の質問を受け、彼女はしばし言いあぐねたが、それでもはっきりと答えてくれた。
「この一ヶ月は───」
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