第17章 リゲイン!

第1話 明日へ①

○○○





 泣き崩れた竜宮院は「誰か助けてぇ」だとか「ママァ」だとか「どうしてよぉ」なんて泣き言を漏らし続けたが、当然ながら誰からも慈悲の手を差し伸べられることはなかった。


 それどころか、先程やべー暴挙を犯したせいで、見たこともないような魔導具をいくつも装着させられていた。それらの具体的な効果については省くが、まあそういうものだと思ってもらって間違いはない。

 これまで彼がやってきたことを思えばこれくらい当然のことであった。


 また連れていかれた先では、長い時間を掛けて取り調べの様なものをされるだろう。

 これまでのやらかしや、彼の持つスキルや、彼が何をしようとしていたか……など。

 そいつが簡単に終わるとは俺には思えなかった。

  

 完全に無力化された彼は、ひっくひっくと泣きべそをかきながら腕を引っ張られて連行されていった。

 俺には、彼が行ってしまう前に伝えないといけないことがあった。


「竜宮院、少なくとも二十年頑張れば、帰れるように手助けしてやるからな!」


 彼の背中に向けて声を掛けた。


「二十……年……」


 竜宮院は、俺の言葉を聞くと、


「二十年……?」


 もう一度反芻した。

 数秒後、ようやく理解できたのか、


「ああああァァァーーー!! ああーーー!! あぁあァァァーー! まァァァーー! ああァァァーー!」


 彼は力の限り泣き叫んだ。

 けれど無駄だ。彼を助ける者は誰もいない。


 俺の言葉は決してただの脅しではない。

 竜宮院の助命をお願いしたのは、彼が可哀想だからというわけではなかった。


《願いの宝珠》を用いれば、どれだけ時を経ても、あの日のあの場所にあの日の姿で帰ることが出来ると言われている。

 しかし残念ながら《願いの宝珠》は一つしかないので、彼には、二十年後に再使用が可能となった召喚の魔導具で向こうへ帰ってもらうつもりだ。

 さらに言うと、召喚の魔導具という通常の帰還方法で二十年後向こうへと帰った場合、四十歳となった竜宮院があの日の竜宮院と入れ替わるわけだが、迷宮探索の達人として苦労した記憶と、二周りほど年歴を重ねた身体で帰還してもらうことにはなってしまうが……。


 けれど、彼がそのとき、本当の本当に、心の底から反省しているのなら、俺が若返る手段を探してやってもいいかもしれない。ただ現段階では、彼が将来的に反省して真人間となっている可能は限りなくゼロに近いと考えられる。




 竜宮院が王の間から連れ出され、次は俺達がはけるだけとなった。

 セナとセンセイの視線を感じた。

 自然と笑みがこぼれた。

 セナも笑顔を返してくれると期待するも、彼女のじとーっとした視線を感じた。視線は俺───の右後ろに向けられていた。


「おや、熱烈な視線じゃあないか」


 それはアノンの声であった。

 いつの間にか俺の背後に戻ってきていたようだが、気配に全く気付かなかった。

 彼のセリフにセナが沈黙を保った。


「無視とはつれないね」


 軽口を叩いたアノンに向けて、セナが言った。


「あなたと話をするつもりはない」


 セナがアノンを威圧した。

 けれどアノンは意に介さずセナに問うた。


「ふむ。キミが、イチローの最愛か……」


 一瞬で顔に火がつくセリフであった。

 

「イチローの最愛は、わたしとセンセイ」


 なのにセナは全く逡巡せずに答えた。

 話をするつもりはないと言ったのにノータイムだ。


「非常に妬けるね……」


 アノンが何かをボソリと呟いた。

 それが何なのか、俺には聞こえなかったが、セナには聞こえていたようで心なしかドヤ顔を浮かべていた。

 センセイが「我も最愛?」「我も最愛?」と俺に尋ねてきた。俺は聞こえない振りをし、セナとアノンのやりとりを注視した……が、アノンは気を取り直したようで、俺に顔を向けた。


「恐らくキミは、今日中に隠れ山に帰るつもりなのかもしれないが、明日から三日だけ王都に泊まってくれないか?」


「どうしてだよ?」


「それは、見てのお楽しみ。絶対にキミに後悔はさせない。

 ああ、オーミさんと、セナ氏も王都に残ってくれるのなら、ワタシが良いものをお見せしよう」


 セナが真顔になり少し怖かったが、よく考えたら普段からこんな感じだった。センセイはいつも通り俺達を見て楽しんでいる。


「セナ、どうする? しんどいなら、一緒に帰ろう」


 俺の問い掛けにセナが、しばし悩んだ───が、


「"気配薄"が、何かを見せてくれるんでしょ? せっかくの機会だから見ていきましょう」


 "気配薄"とはアノンのことか。

 あんまりにもあんまり過ぎるあだ名である。

 セナも、本調子ではなさそうであったが、隠れ山から離れた当初と比べると、その様子は雲泥の差である。けれど、だからといって大丈夫というわけではない。


「具合が悪くなったら、遠慮せず言ってくれな」


 俺の心配は尽きない。


「ムコ殿、セナとイチャつくのも結構。けれど、向こうでぬしを待っとる者達がおるぞ。はよ行ったらんと可哀想じゃろ」


 センセイに言われて、俺はハッとした。


「セナ、少し待っててくれ。話をしてくる」


「待ってる」


 セナの簡潔な返事を受け取ると、俺は彼女達の方へと向かった。





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