第44話 勇者竜宮院の約束された勝利の未来⑤

◯◯◯




 光が失せると、竜宮院が頭を抱えて丸まっていた。しばらくそのままであったが、やがて己が無事と知るや起き上がり、


「これで……終わったのか?」


 ぽかんとした表情のまま己の顔を、身体を、くまなく触り違和感を探した。


「何ともないじゃないか……」


 竜宮院がほっとして思わず呟いたセリフだったが、ギルバートがそれに反応した。


「何ともないわけじゃないよ。普通の人間ならば一日二日も生活したら、己の身に起こった異常に気が付く。人間が活動する上で大事な欲望を二つも取ったんだ、これからだよ。楽しみだね。変化は加速度的に現れてくるから」


 無慈悲な言葉だった。

 竜宮院は抗うことも出来ず、涙を流しながら、文字通り『orz』と全身で悲哀を表した。

 が、しかし───


「おいおい、勇者くん」


 名前を呼ばれた竜宮院が「え?」と顔を上げた。


「誰が終わったって言った?」


 竜宮院は……脳が理解を拒否したのか、虚無顔となった。そもそもアイツはそれほど物わかりが悪くはない。ギルバート枢機卿の言葉の意味をわかっていないわけはない……。


「おいおいおい、これで終わりなわけがないだろう。笑わせるなよ」


 ギルバート枢機卿が教会の仲間に目線を送った。


「え? はっ? えっ?」


「君はバカのくせに、口だけは一人前だったね。嘘も平気でくし、言ってることもその都度コロコロ変わるし、人を騙しても良心の呵責を微塵も感じない。そう考えると君には嘘の才能はあるのかもしれないな」


 それはまだ始まりに過ぎないのだ。


「先程とは異なり、これから行うのは君から"奪うもの"ではない。

 君に課すもの───強制するものと言えばわかるかな?

 まずは君が"嘘"をつけないようにしようか」


 彼が再び、二指で空を切った。

 それと同時に一人目教会の者の詠唱が終わった。合わせてギルバート枢機卿が最後の詠唱を引き受けた。



「【不妄語の戒めライフォビア】」



 竜宮院が再び光の柱に飲み込まれた。


「もう、やめてぇぇぇぇぇぇーーーーー!!」


 時間にしては数秒であったが、竜宮院の気力を削ぐには十分だった。



「これで君は未来永劫、嘘をけない。それがどんなに些細な嘘であろうと、他人のための嘘であろうとね。ああ、君の魂に"それ"が禁忌であると焼き付けたから、解除は出来ないよ」



「ああ、やめてください、やめてください。謝りますから、謝りますから」



 ギルバートは淡々と説明を続け、



「誰か助けてよ……誰か助けてよぉ……ミカァァァ! 助けて! アンジェリカァァァ! 僕を、」



「【不偸盗の戒めロブフォビア】」



「ビルべうどぉぉぉぉ!! たすけ」



 その間にも、次々に詠唱がなされ、



「あーーー!! やめてよぉぉぉ!! どうしてこんなに───」



「【不邪淫の戒めセクスフォビア】」



「僕が何をしたっていうんだぁぁぁぉぉ!!」



 光の柱が竜宮院を飲み込んでは消え、



「いやなのぉぉぉぉぉぉーーーー!!」



「【不飲酒の戒めアルコホルフォビア】」



「ママァぁぁぁぁぁぁぁァァァーーーー!!」



 飲み込んでは消えを繰り返した。



「これで四つ。君の得意な嘘や、搾取、それから君の大好きな性行為や飲酒はこれから二度と出来ない」



 う、ううと竜宮院が地に顔を伏した。


「万が一君がこれらをしようとしても精神と肉体の両方に耐え難いほどの激痛や痺れなどが起こり、君は一定時間行動不能となる。厳しい厳しい修練を耐えてきた元敬虔な信者でさえも、『殺してくれ』と泣き叫んだほどの激痛だ。

 君はどれだけ耐えられるかな?」


「どうして、君達はこんなに酷いことが……出来るんだ……あまりにも、あまりにも非人道的じゃないか」


 竜宮院がう、う、と涙を流しながらも何とか言葉を紡いだ。しかしギルバートの表情は変わらない。その態度は絶対零度を思わせた。


「酷いこと? 君は何言ってるんだい? 君のしたことに比べると何てことはないだろう?」


 彼が淡々と事実を述べた。

 それを聞いた竜宮院が、



「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」



 涙を流して叫び声を上げた。



「どうしてぇあああぁぁぁぁァァァァァァーーーーーーーーーー!!」



 もうどうしようもないほどにどうしようもなくなったのだ。

 それを理解した竜宮院が魂の叫び声を上げた。






──────

一応説明です。


まず竜宮院さんは性欲と睡眠欲を奪われました。

眠る前段階の眠気なんかがなくなりましたので、彼はもはや眠れません

寝ないと死ぬので1日に2度ほど脳のメンテナンスで回復魔法をしなければならなくなりました。

次は、ライフォビア、ロブフォビア、アルコホルフォビア、セクスフォビアで枷を嵌められました。

それぞれ嘘ついたとき、人から何かを奪ったとき、酒を飲んだとき、性行為に及んだときに、歴戦の猛者が「殺してくれ」と嘆願したほどの苦痛が与えられます。

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