第34話 聖騎士 vs 勇者 ⑥

◇◇◇



☆召喚者に与えられしスキル☆

 この世界に召喚された者は多くのスキルを得る。

 特に勇者に与えられるスキルは威力、数と共に群を抜いており、他の職業が与えられるそれとは比較にならないほどである。

 また勇者に与えられるスキルはそのどれもが強力であり、戦場においては、単騎で戦況を一気に覆すジョーカーとなり得る。


 これこそが地球人が召喚される理由であった。


 また、召喚者に与えられしスキルにはその人物の性格、特技、興味、思考などの様々なパーソナリティが反映される。


 舞台が好きだった召喚者には、勇者の戦闘スキルの他、《舞台》に関するスキルが与えられた。


 歌が好きだった召喚者には、《歌唱》に関するスキルが与えられた。


 刀剣や刀鍛冶に興味があった召喚者には《鍛冶》に関するスキルが与えられた。



 人との信頼を大事にし、家族や友人を何より大切に思い、また困った人がいたら見過ごせない、バカがつく程のお人好しの召喚者───山田一郎には、《守護神》、《信頼と信用》、《スキルディフェンダー》といった大切な人を護るためのスキルが与えられた。



 では勇者として召喚された竜宮院王子にはどのようなスキルが与えられたのか?


 竜宮院王子は常々、他者が己のために働くことは当然だと、己が手を加えずとも、他者が何かを成したのならその功績は己のものだと考えてきた。

 他人は喜んで全てを差し出せば良い。

 そしてその結果、誰がどうなろうとも気にすることはない。

 誰が死のうとも、どれだけの屍が積み上げられようとも、彼は微塵も気にすることはない。


 こういった強烈な欲望を胸に秘め、おくびにも出すことなく日常生活を送り続けた竜宮院には、一体どのようなスキルが与えられたのか?






 勇者竜宮院のスキルの具現たるオーラは、タールを混ぜ込んだような、全ての色を喰らい尽くす黒であった───それは比肩するものの無いほどに強力無比なスキルであったが、数多のバフと《護剣リファイア》による増幅効果とプルミーにより譲り受けた《増幅器》により極限まで強化された山田の《スキルディフェンダー》によって抑え込えこまれ、ただ消滅を待つばかりというところまで追い詰められた。



「助けてよぉぉっ! 誰かぁぁぁぁっ! 誰でもいいからァァァァッ!! もうやめてよぉぉぉッ!!」



 青褪めた顔で、泣き言を漏らす竜宮院は、しかし諦めが悪かった。

 彼には、明るい未来を実現するまで絶対に諦めないという蛇のような執念があった。

 彼の中には全ての罪を認め、贖うという思考は微塵たりとも存在しない。

 それどころか彼にあったのは素晴らしき未来へのビジョンであった。

 それも、姫をめとり、王を追い落とし、聖女を側室にし、邪魔者を全て屠り去り、政教の全てをその手に納めんとするヴィジョンである。

 

 ただし達成間近であった栄光を、現実のものとするためには、この死中を乗り切る必要があった。

 

 だから竜宮院は、迷うことなくわずかな可能性に、自らのスキルの可能性に、賭けた。

 彼は、その賭けに───





○○○





 竜宮院から、黒いオーラが再度噴き出した。



「やったぞ!! やったやったやったやった!! やっぱり正義は勝つんだッッ!!」



 その威力は先程よりも強く、俺とリファイアによって抑え込んでいた黒いオーラが、ジリジリと空間内での存在感を強くし始めた。

 竜宮院のスキルの急激な威力の上昇に、加速度的に俺達の負担が大きくなった。バギン。食いしばった奥歯から音がし、口内を血の味が満たした。



「山田ッ! 神様はやっぱり僕を選んだんだ! んん? 何だか不思議そうな顔をしてるね!! いいよ、僕が何をしたか教えてあげるよ!!」



 パリン───指にはめた《増幅器》が限界を迎え崩れ落ちた。



「スキルってのはね、基本的には一度用いたら、クールタイムを挟まないと使えないってのが常識だ! けれど、僕はその常識を打ち破ったんだ!!」



 言葉を発する余裕など、ない。



「親切な僕が教えて上げるんだから耳をかっぽじって聞きたまえ!! 僕のスキルは───」


「黙、れ」


 竜宮院が俺の滝のような汗を見てせせら笑った。



「どうもクールタイムが極端に短いみたいでさ! ほとんど間を置かずにスキルの連続使用ができるみたいなんだよ! 何にせよやってみるもんだ!」



 竜宮院の黒いオーラはさらに勢いを増し、俺の光のオーラを押し返した。



「僕の最強のスキルを重複させたんだ!! さすがの君もこれで終わりかな? まあ、僕は選ばれし勇者だからこそ、このような芸当が出来るんだろうね!!」



 もはやとてもではないが拮抗状態と呼べるものではなかった。

 鼻の下に生ぬるい感触があった。


 

「リファイアッ!! あと、もう少しだッッ!! 俺とッッ!! 俺ともう少しだけ頑張ってくれッッ!!」



 俺の呼び掛けに従い、リファイアからさらなる光が生じた。

 俺とリファイアの死力を振り絞った光だった。



「うおおおオオオォォォォーーーーーー!!」



 死ぬくらいの努力と苦労を重ねてきた! それにこれだけの味方を得て! これだけの準備をしてきた! それなのに! それなのに! どうしてッッ! どうして届かない───


「泣いちゃうかい山田? やめてよ! 僕が弱い者イジメをしてるみたいじゃないか」


 竜宮院が嘲るように嗤った。



「けど、まあ、あくまで保険だよ、これは」



 そう告げた瞬間───三つ目───さらに重複された黒いオーラが俺達の光を飲み込まんと勢力を広げ───そして、


 ピシビキリ───手元から崩壊の音が聞こえた。


 信じたくない、音だった。

 

 











☆聖剣☆

 その名を《護剣リファイア》という。

 かつての鍛冶スキルを持つ勇者の少年によって創られ、誰かを護る剣であるという意味とamplifier(増幅器)という単語を元に名付けられた。


 召喚された当初は勇者に与えられたが、《鏡の迷宮》のボス戦において山田の手に渡る。

 以降、弟子のエリスに譲渡されるまでの間、長きに渡り次々と新造最難関迷宮の攻略に取り掛かる山田に力を貸し続けた。

 ただし、《真名まな》が判明するまでは、力を十全に発揮出来ずに、オリハルコンやアダマンタイトなどの《神石》に叩きつけても全く傷つかない超硬い鈍器として扱われていた。


 山田の手を離れたあとも、遣い手の一人であるエリスに警告を出し続けた。


 そもそもの話だ。

 無機物たる聖剣に感情など存在するわけがない。

 鍛治スキルによっての剣を創り上げた少年勇者も、聖剣にそのようなものを付与してなどいない。


 しかし《封印迷宮》内部にて、《真名まな》を取り戻して以降も、エリスの窮地を救い、ミカやアンジェリカを正気に戻すべく働き続けた。


 そしてまた今回も、創り手の願い通り大勢の民を護るため、そして何よりも、あるじと認めし聖騎士山田のため、《護剣リファイア》はおのが全存在を懸けて、持てる力の全てを振り絞った。




○○○






 信じたくなかった。

 けれど、信じないわけにはいかなかった。


 竜宮院のスキルの圧倒的な力の前に───


 俺とリファイア。

 何とか、全力で、全出力で、精も、根も、絞り出し、後も、先も考えず、俺達は持てる力全てを放出し───紙一重で、耐え忍んだ。


 しかし───



「ここッ! までッ! きてッ!! クッソオオオオオオオオオォォォォッッ!!」



 俺よりも先に、リファイアに限界が訪れた。


 パッキィィィィィィィィィーーーーン!!


 崩壊だ。

 俺の相棒たるリファイアが完全に砕け散り、無数の破片となり、宙を舞った。

 

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