第30話 聖騎士 vs 勇者 ②

◯◯◯




 結界の内部から弾き出された竜宮院が再び、俺の前に立った。

 マディソン宰相は、俺達二人を確認すると口を開いた。


「パフィ姫には悪いが、どうも彼女はこの場にそぐわぬようなのでな。仕方なく静かになってもらった」


 では改めて、と彼は言葉を続けた。


「この場に最初からおったのなら、話は把握しておるだろう?

 これまでの話が、真実か否か───私は聖騎士ヤマダに問おう」


 竜宮院が口を挟もうとしたのを、俺は目で制した。彼は歯噛みしたが、開きかけた口を閉ざした。


「これまでになされた話は全て真実です」


 そうだ。全ては虚飾に塗れていた。

 竜宮院がありとあらゆる全てを竜宮院色へと染め上げたのだ。


「《封印迷宮》を含む八つの高難易度の迷宮を踏破したのは、勇者竜宮院ではなく、この私───聖騎士山田です」


 マディソン宰相が一つ頷いた。


「誰か、彼の発言が信頼に値すると保証出来る者はおるか? 勇者パーティの三人よ、今ここに再度の発言を許す」


 彼が三人へと言葉を投げ掛けると、エリスが声を発した。


「不肖、私───エリス・グラディウスが発言いたします。先程の聖女ミカのげんは全て真実のものでありました。

 私達四人は、彼の功績の全てを己がものとし、彼に多大なる屈辱と傷を与え、国と民を欺きました」


 それにアンジェリカも、「剣聖エリスの言葉に何一つ間違いはありません」と続けた。



 エリスとアンジェの発言に竜宮院は戦慄わなないき、諦めたように口を閉ざして俯いた。 


 しかし、これで終わらない。

 竜宮院の感情などお構いなしに証言は続く。

 まずは巨体の猛獣サガが、雄々しく声を上げた。


「ヤマダは実際に大したもんだァ。もしこいつがいなかったらと思ったらゾッとする。間違いなく《封印領域》征伐の立役者はコイツだぜぃ」


 また彼の発言を受けて、クロエが涼しい顔で答えた。


「私の意見も彼のものと相違ない。

 本件に関して、私は全ての功績は彼のものであると確信している。彼は私にそう断言させるほどの、凄まじい実力とそれに見合うだけの人格を備えている。

 神や聖女の話と来て……それに比べると少し物足りないかもしれないが……まあ、いい。

旧都ビエネッタ》とクロエ・テゾーロの名に誓おう。今の私の発言に一つたりとも嘘偽りがないこと」


 そこにプルさんも続いた。


「三つ首龍は私がこれまで対峙してきた中でも最悪と言えるモンスターだった。もしイチローくんがいなければ、その化物の討伐は成し得なかった。そして間違いなく今でもフォグは増殖を続け、三つ首龍は破壊を振り撒き、際限なく被害は広がり続けていたはずだ。

 以上のことは、【プルミー・エン・ダイナスト・フィル・アルトアルブ・イクスィス】の名に賭けて真実だ」


 さらにアノンが「ふむ、乗り遅れたかな?」と語ると表明を始めた。


「彼らの言葉に一つたりとも間違いはない。《封印領域》の征伐、及び《封印迷宮》の踏破は、彼が中心となり解決に導いた。そして何より、彼自身の、身を粉にする尽力により、数え切れないほどの命が救われた。

 単なる一介の情報屋如きで申し訳ないのだけれど、これまでの全ての発言に、ワタシ───アノンの名を賭けようじゃあないか」


 彼の言葉を聞いてオルフェが呟いた。


「アノンのあとってのが癪なんだけど……」


 そう前置くと、彼女の番だった。


「私の名はオルフェリア・ヴェリテ。

 一介の探索者風情がこのようなやんごとなき方々がおられる場で発言することをお許しください。

 の聖騎士の実力は他に比肩する者のないものでした。それに無欲で高潔たる彼は、自分の身も省みずにその力を存分に振るってみせました。恐らくですが───彼がいなければ、この国はおろか、この世界も滅んでいたでしょう。大袈裟だと思われるでしょうが真実です。掛けられるほどのものとは思いませんが、このS級探索者である《剣凪ソードダンス》 オルフェリア・ヴェリテの名をお掛けしましょう」


 皆の発言を聞き、マディソン宰相が感じ入ったように頷くと、再び俺に問うた。


「聖騎士ヤマダよ、多くの者がそなたを褒め称えておるようだな」


 彼らの粋な計らいに目頭が熱くなるのを感じた。この恩は返しても返し切れない。


「どいつもこいつも、ここにいるのは一癖も二癖もある奴ばかりだ。そんな彼らの信頼を勝ち得たのだ。それは、並大抵の苦労では成し得ぬことだっただろう。私は、彼らにこれだけのことを言わせてみせたそなたを、大いに祝福したい。そして、それと共に、この国を救ってくれたことに、最大限の感謝を示したい」


 マディソン宰相が表情を綻ばせると、頭を下げた。


「本当にありがとう」


 それは数秒程であったが、俺は彼の気持ちを確かに受け取った。

 そして、彼の話は続く。


「ヤマダよ、話したいことはこれで終わりではないんだろう?」


 俺の功績を奪った───そんなことが些事に思えるくらい人道にもとることを竜宮院は行った。俺は、そのことがどうしても許せないのだ。


「勇者竜宮院は、私の功績を奪うのみならず、彼の持つ謎の能力によって、私の大切な仲間を操り、非道な行いを強制しました」


 ビクリと───竜宮院は、遠目でもわかるほどに肩を大きく震えさせた。


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