第29話 聖騎士 vs 勇者 ①
○○○
「や、山田……」
「久しぶりだな竜宮院」
不思議なことにあれだけ緊張していた再会が嘘のように、俺の口からするりと挨拶の言葉が出た。しかし、彼の方はそうではなかった───
「な、な、な、なんで」
「俺はお前に引導を渡すためにきた」
「───ッ!!」
竜宮院が傍目にも分かるほどに狼狽え、怯えた様子を見せた。
「お、お前、こ、この俺を殺しに来たのかッ?」
器用にも彼は、へたり込んだままカサカサと後ろへと下がった。
「考え直せ、山田! 復讐からは何も生まれない!」
俺が一歩間合いを詰めると、彼もまたカサカサカサと一歩分後ろに下がった。
「復讐なんてしたって、後には何も残りはしない!! 残るのは禍根だけだ!!」
さらに一歩、俺は進み、彼はカサカサと引いた。
「復讐なんてのは、やった本人が傷つくのみならず、周りも不幸にする最低最悪な行為なんだ!! わかってくれ!!」
竜宮院は、形の良い唇から薄っぺらな言葉を紡いだ。
「山田ッ!! 自分を第一に考えて、自分を大切にしてくれッ!! 同じパーティの仲間として、そして同郷の親友として、俺はお前のことを何よりも心配しているんだ!!」
「よく言えたな……そもそも俺とお前はパーティの仲間じゃねーし、親友じゃねーだろ」
竜宮院に対し、
「山田、俺は本当にお前を心配しているんだ!! お前もわかってるんだろ!!」
ペラッペラな彼の言葉は安物のティッシュペーパーよりも薄っぺらい。
「全ては許すことから始まるんだ! 許すことこそが大切なんだ!! 許すことが肝要なんだ!! わかるだろッッ?!
復讐は新たな憎しみを産み、それが復讐の連鎖を生み出してしまう!! だから人は痛みを堪えてどこかでそれを断ち切らないといけないんだ!!」
「勇者様の言う通りですわっっ!!」
この期に及んで、彼を擁護する者が現れた。
パフィ姫であった。拘束する結界が弛んだのか、自力なのか、それとも何らかのアイテムを持っていたのか、彼女は
「貴方のことは覚えておりますわっっ!!」
そういうと彼女の顔が険しいものとなった。
「いつも汚らしい遊びに
彼女───パフィが正気ではないことを知っててもやはり辛い。
しかし、彼女が正気ではないことを知っているからこそ、採れる選択肢もある。
「アルカナ王やマディソン宰相も見ていたはずです!!」
パフィは同意を求めるように、彼らに顔を向けると、声を大にして訴えかけた。
「彼の───聖騎士ヤマダの愚かで汚らわしくて恥知らずな様をっっ!!」
そこまで言ったところで教会関係者の張った結界が、再び彼女と竜宮院を囲った。
先程とは違い、遠慮のない強力な結界だった。しかし声は聞こえずとも、『ここから出しなさい! 無礼者!!』と彼女が叫んでる様が見えた。
「パフィ待っててくれよ」
俺は、誰にも聞こえないように呟いた。
それは決意である。
竜宮院だけが一人寂しく結界から弾き出され、再び俺達の前に突き出された。
「ひ、ひぁ、ひ……」
ついに最後の理解者を失い、彼は親鳥を失った雛のように、心許なげに、青い顔で立ち尽くした。
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