第26話 磔刑、崇高、殉教者──僕を殺してよ

◯◯◯



 マディソン宰相が竜宮院に尋ねた。

 

「これまでの所業は、全て【神】の命じた通りと申すか?」


 声から彼がどういった感情を抱いているのか伺えなかった。その問いに、竜宮院が厳粛に頷いた。


「その通りです。恐らく、僕がこのまま【神】の命じた通りにし続けていれば、全てのネクスビーは完全に踏破されるでしょう」


 確信を持った風に頷いた彼が、


「それに本来なら───」


 言いたくない、しかし言うしかない───竜宮院がそう思わせる、わざとらしい素振りをみせた、かと思えば、はっきりと口を開いた。


「僕はこの話を、僕が死ぬまで自分一人の内にしまい込み、墓場に持っていこうと思ってました」


「ならなぜ? そなたはその話を墓場に持っていかず今ここでしておる?」


 その質問を受けて、竜宮院がミカ、アンジェ、エリスの順で視線を向けた。


「三人とも、すまなかった。君達は何も悪くないのに……」


 そして、視線を少し落とすと、伏し目がちに彼女達へと謝罪をしてみせた。


「僕が、この話をしたのは、彼女達三人へと責任の矛先が向かったからです」


 マディソン宰相の問いに答えた竜宮院は両膝をついて項垂れた。


「僕が誹りを受け、責められるだけなら構わない」

「それなのに彼女達が責められるだなんて……あまりにも理不尽だ」

「だからそれだけはどうしても避けなければならない……!」

「それに何より……僕の心が耐えられなそうにない……!!」


 彼は罪悪感と罪悪感の板挟みとなった苦しい男の表情を見せた───かと思えばキリッと顔を上げ、


「彼女達は悪くない!! 悪いのは僕一人なんだ!! 僕がもう少し、利口な判断をしていれば!!」


 なあ!! 頼むよ! お願いだから! と力の限り叫び、幾度目かになる涙をぼろぼろと零した。


「彼女達を許してやってくれよ!! 全ては僕なんだ! 僕が悪いんだ!!」


 竜宮院は力なく立ち上がると、ふらりふらりと前へと歩を進めた。


「何をしておる!! 止まれ!!」


 マディソン宰相の静止の声にも、まるで耳に届いていないかのように、竜宮院は前進を続けた。異常事態に、四人の騎士が飛び出し即座に抜剣───切っ先を竜宮院に突き付けた。


「僕が、悪いんだ」


 竜宮院は切っ先の一つに近付いた。

 その剣の持ち主である騎士が「ち、近付くな……」と思わず怖気づいた。しかし竜宮院は構わず刀身を首に触れさせた。彼の首筋から一筋の赤が滴り落ちた。


「……そう、それでいい。

 だからね……僕を殺して欲しい。

 僕を殺してよ。

 僕はもう、疲れたんだ。

【神】の命に従い、民を傷つけ続けることに……」


 竜宮院は、全ての運命を受け入れた風のセリフと両腕を広げたポーズを取ると、リミッターの外れた量の涙をぼたぼたと流した。



 こんな……こんなもんは詭弁だ。

 嘘だ。偽りだ。

 これこそが、彼の特技じゃないか。

 竜宮院は、どれだけ人を傷つけ、馬鹿にしたら気が済むのか……。

 俺の出番はまだか───そう思ったとき、背中を優しくポンポンと叩かれた。



 ───大丈夫じゃからな



 彼女の気遣いの声が俺の心の奥深くにまで届いた。

 次の瞬間、隣にいる薄紫の着物を着崩した彼女が立ち上がった。

 彼女はしゃなりしゃなりと前へと進み出た。彼女には不思議な引力があった。引力は人の目を惹きつけ、もはや王の間の全ての人間の目が釘付けとなって離せない。

 誰も彼女をとがめられない。

 彼女は手にした緋色の扇をバシンとたたむと、その先を竜宮院へと突きつけ、こう言った。




「『だうと』、じゃな」




 いつもの柔和な雰囲気は鳴りを潜め、どこか悪魔的な妖艶妖美さを漂わせ、センセイは凄絶な笑みを浮かべたのだった。









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期間も残すところあと少しとなりましたので、お手すきの方は是非ー


 



 

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