第17話 手筈は整ってる②

◇◇◇




 手紙を読んだあとに、マディソンとギルバートはすぐさま互いに連絡を取りあった。

 アノンの指示に従うことはまるで掌の上で転がされるようで癪であったが、二人はアノンの言う通りに事実確認に努めた。


 アノンの指示通りに調査してみると、聖騎士がかつて起こした事件など、探せば出るわ出るわ、泣き寝入りした被害者も出るわ出るわ、自分達がこれまで把握していたものが氷山の一角であったことを恥じたが、それ以上に、驚くべきことが判明した。


 聖騎士が過去に起こした事件も、勇者がレモネで起こした事件も、どちらの場合も手段や内容、その事件の根底に流れる思想のようなものが全く同じであった。


 何かに閃くと、アドバイスと称し、面白半分で首を突っ込む。仕事や経営などに口を出し、これに意見したり頷かなかった者には、自身の力や国の名を盾にし脅迫する。泣く泣く彼に従い破滅を迎えようとも、もちろん彼は責任は取らず、日々を懸命に生きる人々の生活を蹂躙し、壊滅させる。

 まるでその日気分で目に入った積み木の山を崩すかのように。


 また、気に入った女性がいれば、自分の閨に呼ぶ。

 その際に言うことを聞かない女性がいても、「君のせいで僕はもうやる気をなくした。スタンピードでも起きて、みんなが死ねばそれは君が殺したんだ」などと毎度似たような言葉で責め、罪悪感を煽り、自分の良いように動かし無理やり辱めた。


 かつての聖騎士と、現在の勇者。

 二人の起こした事件は共通して、この世界を、そしてこの世界に住む民を、軽んじ、侮り、馬鹿にし、こいつらには何をしても構わないという思想があるからこそ行えた凶行であり、そういった背景が透けて見えるものであった。



 マディソン宰相もギルバートも、この時点で既にアノンの言い分は真実だろうと、ほぼ確信していた。


 アノンの接触から一週間も経たずに、彼らは綿密な調査をひとしきりやり終えた。どちらから言い出すともなく、二人は互いに「アノンは正しいことを言っているのではないか」という認識を報告し合った後、こちらからアノンに接触するにはどうすれば良いかと頭を悩ませた。




 ちょうどその日の夜であった。

 ギルバート枢機卿は己の部屋に、あるはずのない気配が生じたのに気付いた。完全にタイミングを見計らったかのよう現れたのは、ここにいるはずのないアノンだった。


 気配の薄さや得体の知れなさや、厳重な警備をくぐり抜けて私室に入り込んだ謎の人物である。当初ギルバートは死を意識した。

 しかしアノンからの名乗りで、それが誤解(?)であること知ると、ギルバート枢機卿は今後も連絡を取れるようにと、互いの《連絡の宝珠》にそれぞれの魔力を覚えさせた。


 こうしてアノンと接触することになったギルバート枢機卿は、これよりマディソンを交え、さらに多くの情報を共有し、対勇者対策を練ることになった。

 また、彼ら三人が出会ったことにより、勇者リューグーインの処遇ははっきりと決まったのであった。








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次から竜宮院さんの絶体絶命のお話

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