第13話 / objective



 オルフェがパフィに近付いたその瞬間、パフィがくたりと倒れ、それをオルフェが抱き抱えた。


「あら、具合が悪いのかしら?」


 俺には見えてしまった……オルフェが高速でパフィの頸動脈をキュキュッと圧迫したのを。


「姫様っ!!」


 教育係の彼女は声に心配を滲ませ、パフィの元に駆け寄った。竜宮院がそれらを冷ややかな目で見ていた。


「使えなさ過ぎる」


 彼が投げやりに呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。それがオルフェにも聞こえていたのだろう。


「姫さんと会ったのは初めてなんだけど、あなたのやってることって何か気に入らないのよね」


 オルフェの視線が竜宮院の顔を射抜いた。

 竜宮院が眉を潜め、頭に『?』を浮かべた。


「どーもー! あなたと会うのはこれで二回目かしらー? 覚えてるー?」


 それは彼女に似合わない陽気な声であった。しかしそこには静かな怒気があった。対する竜宮院は、顎に手を当てることしばし……とそこで、何かを思い出したかのように、顔面を真っ青に変えた。顔面ブルースワットというやつだ。


「思い出してくれたー? そぉーでーす!

七番目の青セブンスブルー》所属オルフェリア・ヴェリテでーす!」


 竜宮院は戦慄わななき、オルフェに指を差した。


「お前は、あのときの暴力女っっ!!」


 彼の言葉に、容姿端麗なオルフェが見惚れるような笑みを浮かべた。けれどその目は笑っていない。


「せいかーい! だから、ご褒美を上げるわ」


 言うや否や、力強く握り込まれた彼女の右拳が、竜宮院の腹へと向かって放たれた───しかし───「ッッ!」───オルフェが痛みに顔を歪めた。



「残念」



 彼女の拳は竜宮院を護る堅固な結界に阻まれ、弾かれた。



「僕は、暴力が嫌いなんだ」



 彼は、背後のエリスに向き直り、オルフェに対する報復を命───しかし先に、クロアが指を鳴らした。




◇◇◇





☆《祝の指輪アイテムエフェクトジャマーリング》☆

 クロア・テゾーロ謹製の指輪。

 一定距離内に存在する対象となる人物の所持するアイテムが、効果を発揮するのを妨げるアイテム。

 常時発動ではなく、何らかの定められたトリガーが必要となるが、今回はクロア自身の指を鳴らす音に反応し、起動するように調整されていた。

 名前の由来は、自らを呪いから解放してくれた"聖騎士への感謝の気持ち"である。





○○○




「オルフェリアさん、今度は大丈夫!! もう一度やってみて!!」


「任せて!!」


 オルフェリアはクロアの指示を受け、微塵も迷いなく右拳を再度振るった。


「これでも喰らえッッ!!」


 拳がビュンと風を切り、再び竜宮院の腹へと突き刺さると、まるでバトル漫画の様に彼の背中側がゴボォォォと盛り上がった。


「ぐぅるえええぇぇぇぇうぐるぅ!!」


 竜宮院は、奇声を上げて、身体をくの字にすると、ズボンの正面が一気にジョアアァと湿り気を帯びた。


「お、ぐろ、おぉ、うあ」


 聞くに耐えない奇声と共に、一歩、二歩と後ろに下がると、おぼろぉと吐瀉し、尻を突き上げて正面に倒れ込んだ。それだけに飽き足らず、ズボンの尻側がこんもりも膨れ上がった。


 彼の後ろにいた美女達もこれにはたまらず、顔をしかめて「やば」「ちょっ」「え、漏らしたの?」「文字通りクソヤローじゃん」「ゲロと大小同時よ」「もう我慢出来ない」「どうしてこんな目に」「いやー」と鼻を摘んだのだった。


「勇者様ーーーー!!」


 何のコントか、またまた誰かが叫び声を上げて俺達の部屋に足を踏み入れた。


「何で勝手に指定された部屋じゃないところに入っちゃうのですか……」


 その正体は、どこかげっそりとした小太りの男性であった。


「やっぱり……絶対に問題起こすと思ってましたよ」


 彼はすぐに異常事態に気付くと、涙目に鼻を摘まみ、竜宮院を引き摺るように、別室へと連れ去ったのだった。 







─────

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