第14話 扉は開かれた
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扉は開かれた。
玉座の間へと足を踏み入れると、華美に誂えられた天井の灯りが室内を燦々と照らしていた。俺は一瞬、目を瞬いた。
眼前に広がる光景は、あのとき見たそのままに、俺達を出迎えた。
ドイツ建築を思わせる内装も、床に敷かれた赤いカーペットも、金や謎鉱石で作られた装飾品の数々も、何も変わらない。
俺の視線の先───続く階上には豪華な造りの椅子があって、そこには無駄に偉そうな白髭を蓄えたアルカナ国王が座っていた。
全てはここから始まったのだ。
胸に去来するのは感慨深さか、それとも───
静寂の中、四十人近くもの大人数が、手筈通りにつつがなく動いた。
視線を巡らせると、王の隣には、もちろんアルカナの美姫───パフィがおり、王の少し離れたところには、宰相の爺さんがいた。
また、さらに彼から少し離れた両の壁には、教会関係者達がずらりと並び佇んだ。奥手から順に、クラーテル教最大権力である教皇をはじめ、数々の枢機卿ときて、有力な大司教達までがこれでもかと
とそこで、恐らくは枢機卿、その内の一人───特に若い彼が俺をじろりと一瞥した。どこか見定めるような瞳であったが、不思議と敵意のようなものは感じなかった。
俺達功労者の最前列には、三人の聖騎士が並んでいた。
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これまで滅私の精神で《封印迷宮》を抑え込んでいた彼らこそが、最も褒め称えられるべき存在であることは誰の目にも明白だった。
人数は多いものの、王の御前ということもあり迅速に並ぶと、俺達はその場に膝を着いた。全ての者が揃い、準備が整ったというのに、竜宮院の姿が未だ───とそこで『バターン!』と、不躾な音が響き渡った。これが主役の登場だと言わんばかりに、重々しい扉が無遠慮に開かれた音だった。
俺達は、否応なく視線を向けた。
注目を浴びたことに気を良くしたのか、彼───竜宮院王子が美しく微笑んで両手をババっと広げた。
「やあやあ、僕こそが護国救世の勇者竜宮院王子! これまで数々のネクスビーを踏破してきた僕が、それに満足し歩みを止めることなく、何と此度は、アルカナ王国とその民を長らく苦しめてきた《封印迷宮》までもを、完全に滅ぼしてみせた!! 今度からはその功績を以て稀代の英雄勇者と呼んでくれたまえ!!」
さっきのハプニングなんて嘘のように、彼は爽やかな笑顔とイケボを響かせた。
彼の左右には、ミカとアンジェが、そしてその背後にはエリスが付き従っていた。
というか『たまえ』ってなんだよ『たまえ』って。
ああ、これはあの日の焼き増しだ。
そうだ、竜宮院は変わらない。
俺達がどれだけ苦しんでも、彼はそのままだ。美しい顔も、無駄に金のかかった装飾も、魅惑的な声も、何も変わりやしない。
入口付近では、竜宮院達の連れてきた女性達が止められていた。当然の措置であった。彼女達の顔がどこか安堵したように見えたのは俺の気のせいではないはずだ。竜宮院が自分の連れてきた女性達に手でしっしっと追っ払う仕草を見せた。
「リューグーインさまぁぁっ!!」
パフィが空気の読めない歓声を上げて、小さく手を振った。宰相の爺さんの眉が釣り上がり、それを敏感に察知した王の顔がシュンと曇った。
彼女の声援に対し、竜宮院がキスを投げるポーズを取った。もはや不敬どころの話ではなかった。
そこでパフィからさらなる歓声が上がる前に、宰相が先手を打った。彼が手を叩くと、ゲストルームで見た教育係の女性が彼女の口を両手で塞いだ。
あの聡明だった彼女が、これほどの狂態痴態を見せるのだ。今ならわかる。全ては竜宮院のせいであった。
ああ。ああ───
じくじくと胸が傷む。
誰に対しても別け隔てなく優しく、常に民を思っていた彼女の今の姿は、直視に耐えなかった。
それでも十分満足したのか、竜宮院は数度頷くと、三人を引き連れ、誰に言われるともなく、俺達の列を突っ切るようにして通った。その姿はまるで路傍の石ころを無意識に蹴り飛ばすようだった。
当然ムッとする人も少なくはなかったが、玉座の間で騒ぐ愚か者は竜宮院以外にはいなかった。竜宮院は三人の聖騎士を押しのけるようにして、最前列に出ると、左からアンジェ、竜宮院、ミカ、エリスの順に並んだのだった。
そして、彼以外の三人が膝を着けたのを確認すると、不満気な顔を隠そうともせずに口を開いた。
「僕もやるのかい? この僕が?」
彼はひとしきり駄々を捏ねた後、渋々腰を落としたのだった。
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