第7話 Days Before The Catastrophe⑦

◇◇◇




「オーミ様!」


 いつの間にか彼女は街の人から尊敬と共に、そう呼ばれるようになっていた。これまで、ほとんど人里で目立つようなことをしてこなかった彼女であったが、彼女自身、思うところがあったのか、今回は人里で精力的に動くことを決めたのだった。


 オーミは何やら色々と動いていたが、手が空くとふらりと教会に赴いた。彼女は教会での治療に無償で携わっていた。機会はそれほど多くなかったが、単純な怪我から瀕死の者まで、彼女は多くの者を完全に治療してみせた。神の御業にも匹敵する偉業をこなすも、彼女は大したことはしてないとばかりに誇ることも、ことさら偉ぶることもせずに、治療を続けた。

 彼女は「ありがとうございます! オーミ様!」と感謝を告げられるも、「よいよい」「達者でな」「元気での」と軽く返し、見返りを求めることはなかった。


 また別の日には、教会の行う炊き出しに出向いたかと思うと、彼女も現地のシスターと共に、大量の食事を振る舞ったのだった。

 立ちっぱなしの重労働であるはずの炊き出しであるが、彼女は疲れた表情一つ見せずに、明るい表情で仕事を続けた。


 そういったことが何回もあると、気が付いたときには影で彼女は「女神様」などと呼ばれていた。




◇◇◇




「オーミ様、探しましたよ」


「アノンか」


 オーミは、翌日の炊き出しの仕込みを終えて、教会裏手にてゴミの処理作業をしていた。


ぬしから様付けされると気持ち悪いのう……」


の前で、オーミ氏と呼んだとき、『もう一度その敬称で呼んだら殺す』って怒られました……。彼にワタシを殺せるとは思いませんが、ただ彼の信仰心は尊敬に値するものでしたので」


「まあ、奴なら我が"誰"であるかある程度はわかるじゃろうからな、それも致し方なしじゃ。というか、アノンよ、ちょっと前の時代はもっと過激だったんじゃからな」


 アノンがフードの下で苦笑いを浮かべた。


「我もボルダフからあまり離れられんから、"奴"のように濁っておらず優秀な者がいてくれて助かったわ……。それで、教会上層部で"奴"のように濁らずに地位に相応しい力を持つ者のリストはできたんじゃろうな」


「何せ"彼"ですから……彼は力と思慮を兼ね備えてますし……何より常にそういうこと・・・・・・を考えて生きているたぐいの人間ですからね、彼に聞けば使える人間と使えない人間の名前がポンポンといくらでも挙がりましたね」


 ふーむ、とオーミが宙に視線を向けた。


「ただのう、アヤツは見たところ敵が多そうじゃからな、アヤツが教会のやつらを頼るとしても、駄目じゃろうなぁ。といって、アノン───ぬしが赴いても、その辺の結果は変わらんじゃろう……」


 ぬしもアヤツと同じく敵が多そうじゃもんなぁ……とオーミは呟いた。


「やはり、アナタ自身がお出になるのが一番では……?」


 情報を扱うアノンは、言うならばそこがアキレス腱であった。情報とはすなわち他人の弱点であったりもする。要するに自分は他人の弱点を探す人間だ……味方より敵が多いに決まってる───それを自覚しているアノンは、『やっぱり私はイチローの様にはなれないね』と心の中で項垂うなだれた。その想いは絶対に表には出しやしないが。


「多少無理すればやれんことはないが……そうじゃな、それでも我にはやらねばならんことがあってな……」


 とはいうものの、その『やらねばならんこと』というのが問題だった。

 どうじゃろう? いけるか?

 こればっかりはのー……。

 オーミが苦悩の声を漏らした。

 そしてしばし目を瞑ると、


「あいわかった、まあ何とかなるじゃろ。駄目なら駄目で、そのときはそのときじゃ。我がその辺のごちゃごちゃしたことは、何とかしてやる。だからぬしには、これまで通りに細かい調整や、マディソン達との連携を任せる」




◇◇◇



 相変わらず、オーミは神出鬼没で、何やら忙しくせっせこと動いている……かと思えば、教会に顔を出して、シスター達と共に奉仕活動を行い、という日々を送っていた。


 そんなある日のことである。

 炊き出しに訪れたオーミの隣には───








──────

これにて

次から同時刻の竜宮院さんのお話になります。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る