第2話 Days Before The Catastrophe②

◇◇◇



 怜悧冷徹のエルフ───プルミー・エン・ダイナストは自らの本拠地であるグリンアイズへと戻ると、事件の後始末に奔走していた。

 街へと戻ったその日からプルミーは超特急で連日連夜ひたすらに仕事に没頭した。それもこれも彼らのいる街の祭に参加するためであった。


 その甲斐もあり、夜のはじめの執務室にて、プルミーは椅子に背中を預け、両手を上げて、大きく伸びをし、息を漏らした。


「ようやくぅぅぅ……終わったぁぁぁ!」


 やっと一段落ついた……やっとだ……。

 久し振りにワインでも開けるか?

 チーズと干し肉でいけるか?

 独りじゃあれだし、アンジェ呼ぶか?


 ちょっとした感慨に耽っていると、《連絡の宝珠》がベカベカと光りペッペけーと音を鳴らした。


「こんな遅くに……」


 どうせジジイ宰相からだろう。無茶振りしてきたら断ってやる。いつも受けてやってるのに感謝するどころか、私を狂人扱いしたんだ。前回悩みを打ち明けたときのことを、私は覚えてるんだ。


 しかし連絡の主は、ボルダフにいたヤマダやオーミやアノン達であった。


「お、オーミ様!? それにイチローくんっ!?」


『ワタシもいるよっ』


 急な連絡にテンパリ気味のプルミーは、向こうに見えるはずのない己の姿を気にし、何度も手で髪を整えた。



◇◇◇



 プルミー自体も、国からの招集に参加するように言われていたが、どうやらそこにヤマダも参加するのだそうだ。


「当然だな。君こそが本来の栄誉を受け取るべき者だからね……ただ、その面子めんつで連絡をくれたってことは、私にただ報告するためだけではないんだろ?」


 プルミーの察しの良さに、向こうにいるイチローが何かを言った。すると、プルミーの頬にさっと紅が差した。


「いや、そんな大層なもんじゃないよ」


 クールに答えたが、満更でもなかった。

 そのときオーミは『あやつ今頃、耳をピクつかせてるんじゃろうなぁ』と予想していたが、全くその通りであった。


「イチローくん、君の話を聞きたい。是非この場で話して欲しい。それからオーミ様に、アノンも、補足があるならその都度頼む」


 彼女の言葉を皮切りに、ヤマダの話───その本題が語られた。

 全てが語られたあと、ヤマダから力と知恵を貸して欲しいと頼まれた。


「手伝うさ。そんなの当然だろう」


 彼女は悩む前に頷いた。

 これも当然だった。

 記憶が二つあるなどという荒唐無稽な話をしたとき、真剣に話を聞いて信じてくれたのは他ならぬ彼だった。


 そして何より───我が身を省みずに、三つ首龍から己の命を救ってくれたのも彼であった。


「まず、アンジェを呼ぶべきだ」


 プルミーが真っ先に提言したのはそれだった。

 娘であるアンジェリカは、巷では賢者と呼ばれているほどの知恵者であった。

 三つ首龍戦で用いた雷魔法を創り上げるには、莫大な知識が必要なはずであった。今回の様な未曾有の事態に立ち向かう場合、知恵を出す者は多ければ多いほど良い。

 なのだが───


「そう言えばだな、あのー、なんだ、その、イチローくん、君はアンジェとは……」


 忘れていた。非常にセンシティブな言いにくいことであったが、今後を考えると尋ねないという選択肢はなかった。


 

 そんなこんなはありつつも、その日、プルミー達は彼を助けるべく議論を重ねた。

 その最中、プルミーには一つ閃いたことがあった。

 彼の持つソレ・・と似た能力を持つこのアイテム・・・・・・であれば、間違いなく彼の助けになるはずだ。


 明日、アンジェと共にショートカット(《鶴翼の導きクレイン》)を駆使してボルダフに向かう。向こうで彼にこのアイテム・・・・・・を渡したい。それに実際に顔を突き合わせ、より多人数での直接的な話し合いをした方が、作戦を煮詰めることができるだろう。


 何より、アンジェも彼と会いたいだろうし……それに───私も彼と会いたい。


 彼が死に瀕していると報告を受けたときは気が気ではなかった。だから直接会って、元気を取り戻した彼に、感謝の意を伝えるのだ。





──────

祭もやってますしね

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