第16章 バーサス

第1話 Days Before The Catastrophe①

◇◇◇




 聖騎士ヤマダは、最愛の少女セナに勇者リューグーインと対峙するという決意を伝えた。

 彼は翌日に山を降り、頼れる仲間達と共に、精力的に行動を始めた。




◇◇◇



 覆面の情報屋アノンは、ヤマダが山から降りてきたその日、改めて彼から頭を下げられ、勇者との戦いに手を貸してくれと頼まれた。

 アノンは慌てて頭を上げるように伝え、すぐさま自らが彼の助けになってみせると答えた。

 ヤマダの表情が綻んだのを見たアノンは、彼の様子がこれまでと違うことに気付いた。決意した男の表情に胸が高鳴るのを感じた。

 アノンは湧き上がる気持ちを圧し殺し、かねてより持っていた考えをヤマダに提案したのだった。そして、その先にこそ───




◇◇◇




 剣聖エリスは、聖剣───《護剣リファイア》を師匠であるヤマダへと返した。どこか神聖な雰囲気を醸し出すオーミからの指示であった。ヤマダが国からの招集に応じた場合、聖剣こそが彼にとっての最重要アイテムとなるはずだからと説明された。


 長らく自身を助けてくれていたという話を聞いたこともあり、彼女はそれを手放したことで形容し難い寂しさを感じたのだった。

 だだ、彼女もまだまだ未熟の身であるからか、それが表情に出てしまい、ヤマダに感情を悟られてしまった。

 しまった、と思ったのも一瞬、ヤマダはしばし目を閉じた後に、マジックバッグから何かを取り出した。


「代わりに、こいつをやる」


 それは、ヤマダが用いていた白い魔剣───グラムコピーであった。エリスは恐れ多いと遠慮はしたものの、ヤマダの押しの強さに負け、ついにそれを受け取った。

 それからというもの、彼女は暇さえあればグラムコピーを眺めていたのだった。


「ししょう……」


「にやにやしていて、何だか気持ち悪いわ」


 小屋で養生を続けるエリスのその姿を見て、セナがジト目で呟いたのだった。




◇◇◇




 オルフェリア・ヴェリテは自らが師父と仰ぐヤマダから、今度の国の招集に参加する旨を聞かされた。その際、彼が何と戦おうとしているのか、そして、何が起こっているのかも説明されたのだった。


 彼の話はあまりにも突拍子もないものであったが、かつて自らが覚えた違和感を説明するにたる話だと気付いた。

 彼と出会ってからそれほど長い時間を過ごしたわけではない。けれど共に過ごした時間の長さよりも密度こそが大事であることを知っていた。彼女はもはや、彼の実力と同じくらい彼という人間を尊敬していた。

 彼はそんなくだらない嘘をかない。オルフェリアは知っていた。


 勇者の能力は未だに判明していないけれど、もしもそれが、魔力などの超常の力を元に用いられたものであれば、自分と───この《双剣陰陽インヤン》が彼の力になれるのではないか。

 オルフェリアはヤマダがあの日、みんなを庇い一人で漆黒の暗闇に飲み込まれたことに忸怩たる思いを感じていた。

 だからこそ今度は、絶対に彼の力になってみせる。





◇◇◇




 ヤマダと共にボルダフに訪れたオーミは、気ままな猫の様であった。彼女は、ヤマダと行動を共にしたかと思えば、姿を消し、またしばらくすると、いつの間にかヤマダの背後で「ふむふむ、なるほどのー」などと相槌を打っていたりと、まさに神出鬼没という言葉が似合うムーブを繰り返した。

 しかし、ヤマダはもはや彼女のことを敬愛し、最上級に信頼を置いているため、彼女が行方知らずになっても「ああーどっか行ってんなー、けど俺のために動いてくれてんだろ」程度にしか思わず、深く問い質すことはなかった。必要なら、自分から話してくれんだろ。少しばかり、盲目的な信頼とも言えるが、彼の考えに間違いはない。


 数日後のある日、彼はオーミに呼び止められた。


「ムコ殿、もう万全のようじゃな」


「心配かけちゃいましたね」


 もう大丈夫ですよと、彼は力こぶを作って見せた。


「ふむ……そうか。なら、ムコ殿には一つ、頑張ってもらうことにするか」


「何です? 藪から棒に」


 オーミが腕を組んだ。 


「そうじゃな……ムコ殿には今日から、見えないものを見えるようにする訓練を受けてもらう」












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決戦の章

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