第5話 竜宮院王子③

◇◇◇




 竜宮院王子は聞いていた。




◇◇◇




 これは竜宮院王子という人間のパーソナリティの話である。というと大層な話に聞こえるかもしれないが、そんなことは全くなく、どちらかといえば下世話な話である。


 竜宮院王子は一つの矛盾を抱え込んでいた。

 まず……彼は女性に知性を求める。

 この文を読んだ者の言わんとしたいことは想像がつく。しかしこの際、少しだけ我慢して、彼に知性があるかどうかはいったん置いておいて欲しい。


 彼の性的嗜好に照らし合わせたとき、彼曰くの『無知な女性』よりは、彼曰くの『己の頭でしっかりと考える女性』の方が、彼のそれと合致していた。要するに彼は頭の良い女が好きなのだった。


 しかし、どうだろう。

 竜宮院の感情どうこうではなく、大事なのは、彼の好みである『己の頭でしっかりと考える女性』にとって、竜宮院がどう映るのかである。そうした場合、『己の頭でしっかりと考える女性』が竜宮院を見定めれば、彼の本質に気付く可能性は高い。


 そもそも日本で学生をしていた頃の竜宮院の擬態はそれなりに機能しており、彼は男女問わずに好かれていた。ましてや女性ともなると、彼の物腰柔らかな態度や、蕩けるような声に、その甘いルックスに騙されて、多くの者が彼に熱を上げていた。しかし、全ての女性がそうであったわけではない。そう。彼に好意を抱かない少数の者こそが、『己の頭で考える女性』であった。


 まさに皮肉なことに、彼の性癖に合致する女性こそが、彼にとって最大の鬼門であるという矛盾を彼は無自覚的に抱いていたのだ。



◇◇◇



 竜宮院は勉強が得意ではなかったが、それに関しては特に大したことではないと割り切っていた。運動も並であったが、同様に、彼にとってそれは特筆すべきことではない。


 将来『勉強』が必要となった場合は、『勉強』できる奴を使えばいいし、『運動』が必要な場合(そんな機会があればだけれど)は『運動』できるやつを使えばいい。


 要するに、己のカリスマで、多種多様に適材適所に人を扱えば良いというのが彼の考えであった。

 それだけの人材を誑し込める自信もあった。そもそも、彼にとって人から好かれるなんてのは当たり前のことであり、特に女なんてのは猫撫で声でちょちょっと囁やけばイチコロであった。そんなわけで彼は、これまでに人から好かれずに苦労したことなどなかった。


 だから───


『私の好きな人は───』


 五木紗希の話を聞いたあと、彼は血管が沸騰しそうな錯覚を覚えた。




◇◇◇




 五木紗希という少女は、竜宮院にとって他の少女とは全くの別物であった。彼曰く『ガラス玉をいくら集めようが宝石には敵わない』というやつである。


 五木紗希は、学内でも有数の学力の持ち主であり、クラスに存在するカーストの外に位置する人物あった。また高校一年とは思えないほどの冷静さと、凛とした雰囲気を纏い、学内でも彼女の美しさは有名であった。彼女の、肩まで伸ばした黒髪は艶を放ち、その切れ長の瞳と、すっと通った鼻梁とは完全に調和しており、多くの者の目を引いた。


 彼女は、カーストなんて何のその、竜宮院にも一切媚びることなく、独自のポジションに位置しており、何よりも、そんなことは些事と言わんばかりに誰に対しても同じ様に振る舞った。そこが良かった。竜宮院にとって、彼女の様な者こそが、価値のある女性であった。竜宮院にとって、彼女の様な女性こそが、己のものになるべき女性であった。


 ああ、彼女をトロフィーの様に侍らせたらどれだけ気持ちが良いだろうか……竜宮院は想像するだけで、呼吸を荒くしたのだった。




 その日は、高校に入って一度目の文化祭準備期間のとある一日であった。


 竜宮院はいつもと変わらず、自身では何もせず、ただ調子良く周りに振る舞い、必要であれば綻びをメンテナンスするかのように、笑顔と愛嬌を振り撒き、適当にその場をやり過ごした。

 いつものことなので、そこに危機感は全く無く、それどころか蝶が花から花に飛び交うように、ひらひらと、ひらひらと、軽やかに人の間を行き交いしていた。


 だから彼にとってはそれも単なるメンテナンスの一環であった。

 竜宮院は、少し前から己に不満げな視線を送ってくる輩のことを把握していた。名前は茂手木。勉強も運動も中の中の彼は、少しだけヤンチャで、カーストで言えば中の上の所に所属していた。それほど役に立つとは思えず、彼のことをずっと捨て置いたが、偶然茂手木が五木紗希と給湯室に向かったことを知ると、『仕方ないなぁ、これも仕事メンテナンスなのさ』と嘯き、彼らの後を追った。



◇◇◇



 先に給湯室に入った二人。

 竜宮院はちょうどそこに追いついた。

 中から二人の話し声が聞こえた。









──────

現代のお話はそれほど考えなくても良いお話となっております。竜宮院がどんなやつかをご堪能いただけましたら……。

現代話は多分次くらいに終わります。推敲も甘いので修正もたくさんすると思いますが許して…



 

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