第15章 ゲッベルスの贈り物
第1話 勇者リューグーインと封印迷宮①
◇◇◇
この国の平和は欺瞞の上に成り立っていた。
欺瞞の正体は《封印迷宮》という、いつ民に牙を剥くとも知れない、超特級危険迷宮の存在であった。
そう。かつて《封印迷宮》はアルカナ王国に災禍を振り撒き、名だたる探索者達を屠り去り、その消滅を阻んだ。
それでも何とか、多くの猛者が死力を尽くすことで、本迷宮は封印されることとなったが───それは消滅ではなく、あくまでも封印であった。
いつ目覚めるとも知れぬ《封印迷宮》の存在がこの国にもたらしたものは平和ではなく───いつ終わるとも知れない
「知れば国民の不安を煽る」とのお題目から絶対秘匿とされた《封印迷宮》であったが、ひょんなことからリューグーインは《封印迷宮》という未曾有のリスクファクターのプレゼンスを知ってしまった。
しかし運命は残酷であった。
勇者リューグーインが《封印迷宮》の真実を知ったとき、彼には既に 《時の迷宮》と呼ばれる、とてつもなく厄介な迷宮を滅ぼすという使命があった。己はどうするべきか、彼は悩み、苦しんだ。
今現在攻略中である《時の迷宮》に引き続き取り掛かるか、それとも《時の迷宮》を後回しにして《封印迷宮》に取り掛かるか……。
しかし、彼が《封印迷宮》という極大の邪悪の存在を知った数瞬後───彼は、その声を確かに聞いた。声は神のものであった。彼は神からの託宣を得たのだ。まるで、勇者が国によって固く隠匿されている迷宮の存在を知るのを、今か今かと待っていたかのように、神は告げた。
何の運命の因果か……神から彼に告げられたのは近い将来、《封印迷宮》からモンスターが溢れ出すというものだった。
神に愛されし勇者であるリューグーイン。
残酷なる未来を……事実を見せられたとき、彼は恐怖心と使命感がないまぜになった感情に、身体を震わせた。
しかし……彼は鋼の如き正義感を発揮し、襲い来る恐怖を何とか捻じ伏せた。
僕が狼狽えてどうする!!
この国の───いや、この世界を滅ぼしかねない《封印迷宮》は何としてでもこの僕が滅ぼさねばならない!!
それは……彼が心に誓った瞬間でもあった。
だから責任感の強いリューグーインには、今現在取り掛かっている《時の迷宮》を優先し、スタンピード目前の《封印迷宮》を放置するという選択肢はあり得なかった。
◇◇◇
勇者リューグーインの唯一の願いは民の安寧であった。それさえあれば己の身はどうなろうと構わなかった。彼にとって民の笑顔こそがもっとも大切なのだった。
そう、彼は
ただ、高潔な魂を持ち、凄まじい戦闘力を誇るリューグーインではあるが、彼一人で、いつ災害を引き起こすともしれない《封印迷宮》を攻略するにはあまりにも時間が足りなかった。
「くそっ! このままじゃ民に危険が及んでしまう!」
苦悩し頭を抱える彼に、彼女達が呼び掛ける声が響いた。
「勇者様、一人で抱え込まないでください」
聖女ミカが、神々しく微笑んだ。
「そうよ、私達がいるじゃない」
賢者アンジェリカが励ますように胸を張った。
「師匠! 四人で動けば何とかなるはずです!」
剣聖エリスが、仲間を鼓舞した。
「みんな、頼む! 危険な戦いになると思う。けれど、国のため、そして民のため、この通りだ!」
「やめてください、私達は勇者パーティです」
彼らこそがまさに《真の仲間》を体現した者達であった。
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