【コミカライズ】聖騎士の俺が好きになったヒロインが続々とアイツのハーレムメンバーになってしまうんだけど俺の何がいけないのか誰か教えてくれ！！

第12話 征伐祭①

○○○

　俺はその日、ドアの外から呼ぶ声に「体調が悪いから」と言い訳し、一人部屋に籠もった。

　翌日になっても、気分が晴れることはなかった。

　けれど、甲斐甲斐しくも俺の看病に訪れるセンセイや、見舞いに訪れたアノンやアシュ達にこれ以上は心配を掛けることはできなかった。彼女達に体調が戻ったと伝えないといけない。

　それに《益荒男傭兵団（ベルセルガ）》以外の靄（フォグ）討伐で肩を並べて戦った人にも挨拶周りをしなければならない。

　不義理は働けない。

　俺は義務感から重い腰を上げた。

　部屋を出る支度をしていると、ちょうどノックが聞こえた。

「はい」と返事をしてドアを開けるとセンセイであった。

　例の如くセンセイに抱き締められた俺は、どたぷーんと窒息し、息が出来なかった。

「センセイ、ごめん」

「バカもん、謝らんでよい」

　俺はセンセイにずっと心配掛けてばかりだ。

　どんちゃん騒ぎに加わりたいだろうに、センセイは俺が出てくるのをギルドでずっと待っていたのだ。

「主（ぬし）は変に頑固で、何でも一人で我慢しよる。主（ぬし）の悪いところじゃ。だからの、我は主（ぬし）の顔が曇っておった理由を強引に聞き出そうと思う。主（ぬし）が全てを話すまで、今日は離すつもりはない」

　俺はセンセイに手を引かれ、再び部屋へと戻ったのだった。

○○○

　勇者パーティの彼女達と何があったか───かつて俺がセナに《願いの宝珠》を見せたあの日、俺はそのおよそのことをセナへと伝えていた。

　その後隠れ山へと合流したセンセイには、既に断片的にではあるが同様の話をしていた。

　断片的な、と言っても何も隠していたわけではない。彼女は俺やセナをいつもからかうが、それでも、本当に嫌なことはしないのだ。だから彼女が無理やり話を聞き出さなかったのは俺がかつてのこと話すことで苦しむのではという彼女の気遣いであった。

　だから今、センセイは、気遣いを超えた優しさで、俺のこれまでの話を聞きたいと申し出てくれたのだ。

　部屋に戻り、椅子を引いて座る。

　センセイは対面ではなく、「よっこいせ」と俺の隣に腰を落とした。

　心を落ち着かせて、俺は口を開いた。

　ああ、どこから話せばと考えていたが、一度話始めると、不思議なことにつっかえることなくすらすらと言葉が出た。

　パフィ、ミカ、アンジェ、エリスと俺とのこと───それは俺と彼女達との出会いと日常、そして別れの話。

　それから異世界に召喚されてならの俺に、切っても切れない同時に召喚された竜宮院と俺のこと───俺の全てが奪われた情けない話。

　勇者パーティとの別離以降も、時は流れて、俺達は《封印迷宮》にて再会を果たした話。

　真名に応じて、俺達を助けてくれた《護剣リファイア》の話。

　二つの記憶に苛まれ苦しんでいたプルさんの話。

　剣を交え、再び俺のことを「師匠」と呼んだエリスの話。

　見てる俺の胸が苦しくなるほどの涙で、俺へと謝罪を重ねたアンジェリカの話。

　己を赦せずに、遠くの修道院へと本意しようとしているミカの話。

　話の合間にも、センセイが相槌を打ち、尋ねられるままに俺は話をし、先程まで昼前だったのが、気が付けば遅い昼ご飯の時間となっていた。

　センセイは言葉少なに「頑張ったな」と俺に慰めの言葉をくれた。ぶわっと湧き上がった感情に胸がつかえた。

　この気持ちは自己憐憫の情かもしれなかった。俺からするとダサくてカッコ悪い感情だった。けれどわかっていても、どうしても、落ち着くまでにしばしの時間が必要だった。

　俺の話を最後まで聞いたセンセイは、何やら考え込んでいる様子であった。

「ムコ殿、我も主（ぬし）の憂いを払えるように動いてみるとするか」

　彼女の言葉が俺に勇気をくれた。

　別に動いてくれなくとも、貴方がいてくれるだけで、俺の心は温かくなってんですよ。

　くっそ恥ずかしい言葉が浮かんだが、俺はついつい───

「なっ！　何をませたことを言うておるっ！」

　口にしていたのだった。

　センセイは艶やかに微笑み「こうじゃこうじゃ」と俺の背中をべしべしペシペシと何度も叩いたのだった。

○○○

　その後センセイと別れ、俺はみんなを探して街へと出た。

　前日のどんちゃん騒ぎは俺の復帰に合わせて開かれた、いわば前夜祭の様なものであった。つまり本日が実質的な祭りの開始日であった。前日を遥かにしのぐ騒がしさであった。

　それが煩わしい、というわけではなかったが、少ししんどかった。だから俺は周りから声を掛けられぬように帽子を目深に被り街へと繰り出した。

　プルさんは先日一足先にグリンアイズの方へと帰ったそうだ。

　彼女は俺が目覚めるまでここに残ると主張したが、《封印迷宮》に関するあれこれの後始末と、後任？　への引き継ぎの準備とやらが残ってると言われ、口頭で伝えられだけでもヤバいとわかる山の様な仕事量に、泣く泣くボルダフを離れたそうであった。

　アンジェリカはプルさんについていったようで、俺は胸を撫で下ろした。これまで離れ離れであった空白の時間を少しでも、埋めることができたらいいなと、俺は心から願った。

　オルフェは《七番目の青（セブンスブルー）》の本拠地へと戻ると言い、その日の内にボルダフを去ったそうだ。

　まさに即決即断の女であった。

　そんなにすぐ立ち去ってしまうなんて寂しいじゃないかと思うも、近い内に再会するような確信があった。なんせ、俺の弟子二号だからな。

　アシュは相変わらず忙しそうだったが、前日と比べると多少はマシになったようで、ほんの少しだけではあるがお茶をした。

　お互いに労（ねぎら）い、《封印迷宮》で四階層でばらばらにされたところから何があったか話し合った。

　特にアシュが気にしていたのはミカのことだった。

　ミカがどんな様子だったかや、アシュの危機を救い俺への謝罪と共に身を投げ出したことなど、アシュは細やかに教えてくれた。

　そんな感じで話をしていると、額に汗したギルド職員が「はぁはぁ」という荒い息と共に突然現れ、ドナドナよろしく、アシュを連れて行ってしまった。

「ロウくぅーーーーーん！！」

　あんな悲しい顔見たことねぇよ。

　アシュ、あれでも聖騎士なんだぜ？

　どんな扱い？

　けれど仕事と言われると仕方ない。

　時間のあるときにでももっとゆっくりと食事しようと約束し、俺はその場を離れた。

　アシュから伝え聞いたミカを思う。

　俺の胸がどうしようもなく痛み、疼いた。

　当のミカは、宿屋にいるのか姿が見えなかった。祭りの喧騒は、今の俺と同様、彼女には少ししんどかったのかもしれない。

　姿が見えなかったのはミカだけではない。

　ついぞエリスの姿も見つけられなかった。

　知ってそうな人に尋ねるも、気付いたときには既に姿が見えなかったようだ。

　彼女が再び俺のことを師匠と呼んでくれた直後、彼女は意識を失った。以降、彼女とは顔を合わせられないでいる。

　エリス……俺を「師匠っ！」と呼んで、また無邪気に笑って見せてくれよ。俺は───

　とそこで最後に出会ったのはアノンであった。

　彼も、《封印迷宮》の後始末や祭りのあれこれに追われているにも関わらず、こっそりと抜け出して俺に会いに来た一人であった。